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いびきの要因

いびきをかきやすい人

ここまでは「いびきをあなどってはいけません、いびきは体が発している警告なのです」という話をしてきました。しかし「自分のいびきに注意しなさい」といっても、自分がいびきをかいているのかどうか、また、どんないびきをかいているかは、人から指摘されない限りわかりません。
この「自覚症状がない」ということが、いびきの厄介なところです。一般に、いびきをかきやすいといわれている人のタイプがあります。まずその外観的な特徴があります。

太っている人や首が太く短い人

太っている人は首も太く、一見、空気の通りがよさそうに思われがちです。けれども太ぜいにくっつている人は上気道の内側、軟口蓋や咽頭壁などにも贅肉がついているため、気道が狭ふさまっているのです。
舌も肥厚してのどを塞いでいるようなケースも多く見られます。にもかかわらず太っている人ほど、体は多くの酸素を必要とするので、たくさん空気を吸い込もうとします。すると気道抵抗が大きくなりますから、いびきをかきやすくなります。
肥満が原因で大いびきをかく人の場合、ダイエットをすることによっていびきはかなり改善されます。

下あごが後退している、下あごが小さい人

舌にはそれを支える大きな柱がないため、仰向けに寝ると落ち込んでしまい、それが気道を狭くさせてしまいます。下あごが小さく、また後退している人は、舌を支えているスぜつこんちんかペースも小さいために舌根沈下が起こりやすくなります。また下あごが小さい人は、歯並びやかみ合わせが悪いことが多いので、そういう人もいびきをかきやすいタイプと思ってください。

鼻筋が広くだんご鼻の人、鼻筋が曲がっている人

呼吸の際の空気の取り入れ口である鼻の通りが悪いと、いびきをかきやすくなります。鼻筋が曲がつている鼻中隔湾曲症の人や、鼻が低くだんご鼻の人などは、鼻腔の部分で強い抵抗が起こり、鼻翼が振動して、いわゆる鼻いびきをかきやすいといえます。とくに鼻中隔湾曲症の人は、鼻づまりによる呼吸障害や喚覚障害を起こしやすいので、耳鼻科などで相談するといいでしょう。

口蓋垂が長い人

のどのかたち(軟口蓋の構造)も、いびきをかきやすいかどうかに大きく関係してきます。軟口蓋は中央部に垂れ下がった口蓋垂(のどちんこ) と左右の前後口蓋弓とで構成されています。口蓋垂が舌につくほど長い人や、左右の口蓋弓の距離が短く咽頭狭窄を起こしている人はいびきをかきやすくなります。

あごを引いた姿勢や手を上げて寝る人

あごを引いた姿勢で眠ると頚部が圧迫されて気道が塞がるため、いびきをかきやすくなります。したがって仰向けで寝る人は、腰の部分がへこんでいる古いベッドマットや、高すぎる枕はよくありません。また、バンザイをするように手を上げて寝るくせのある人も、同じ理由からいびきをかきやすくなります。
いびきを防止するには、横向きの姿勢で寝るとかなり効果的で、これは睡眠時無呼吸症候群の人にも有効です。

口呼吸のクセがある人、口を開けて寝る人

口を閉じているときに比べて開けているときのほうが気道が狭くなるという報告があります。また、睡眠時呼吸障害のある人は、眠っているときに口呼吸をしている割合が高いとも報告されています。風邪を引いて鼻が詰まっているときなどは、誰でも口で呼吸することがありますが、ふだんから口呼吸のクセがある人や、口を開けて眠る習慣のある人は、いびきをかきやすいといえます。

いびきをかきやすいとき

次に、生活スタイルの面から、いびきの要因となるものをあげてみましょう。私たちがいびきをかきやすくなるのは次のような場合です。

体が疲れているときや、ストレスがたまっているとき

睡眠中は体の筋肉がゆるみます。軟口蓋や口蓋垂(のどちんこ) が垂れたり、舌根がのどの奥に沈み込むなどして上気道を塞ぐために、気道抵抗が大きくなります。加えて体が疲れていると、疲れをとるために無意識のうちに口で呼吸し、より多くの酸素を体内に取り入れようとします。
その相乗効果で軟口蓋などが激しく振動して大いびきをかきやすくなります。またストレスによって上気道の異常な感じが起こることがあります。そうなると分泌物がたくさん出たり、粘膜の乾燥・充血などが起こつて、いびきをかきやすくなります。

お酒や睡眠薬などを飲んだとき

アルコールや薬の影響で筋の緊張低下が促進され、上気道の狭窄が起こるうえ、必要な酸素量を確保しようと口で大きく呼吸するため、いびきをかきやすくなります。飲みすぎだけでなく食べすぎもよくありません。消化器官の疲労が全身過労につながるからです。また気道の充血や弛緩が起こって、呼吸のための気道の活動がうまくコントロールできなくなり、いびきをかく原因となります。

生活スタイルとは関係しませんが、次のような場合もいびきの要因となります。

老化による場合

歳をとるにしたがって呼吸筋を含めた筋の弛緩が進み、いびきをかきやすくなります。若いころにはいびきをかかなかったのに、歳をとってからかくようになったをよく聞きますが、老化もまたいびきの原因となりうるのです。

体に異常がある場合

空気の通り道(上気道)を狭くするような構造的な異常が鼻やのどにあると、いびきをかきやすくなります。たとえばのどにアデノイドがあったり、蓄膿症( 慢性副鼻腔炎)や肥厚性鼻炎などで鼻がつまつている場合などです。
いびきの原因となる上気道の疾患には、ほかにアレルギー性鼻炎や鼻中隔攣曲症、鼻茸、腫瘍、扁桃炎、口蓋扁桃肥大、咽頭炎、喉頭炎、口腔の炎症などがあげられます。
高血圧や心臓病、糖尿病などの持病があったり、浮腫や内分泌異常などがある場合もいびきをかきやすくなります。

肥満と老化は危ない兆候を含んでいる

いびきの要因のうち、危ない兆候を含んでいるのが「肥満に起因するいびき」です。というのも、いびきをかく人で太っている人は「睡眠時無呼吸」を起こしている確率がたいへん高く、肥満は睡眠時無呼吸症候群のきわめて重要な要因と考えられるからです。また「老化に起因するいびき」も、一時的にいびきをかくケースとは違って習慣性のいびきになりやすく、やがては「睡眠時呼吸障害」や「睡眠時無呼吸」を引き起こす可能性が高いといえます。
実際、「睡眠時無呼吸症候群」にかかる率は歳をとるとともに増えることが確認されています。アメリカでの数々の調査で、65歳以上の高齢者のおよそ20% 前後が「睡眠時無呼吸」を起こしていることが報告されており、日本における調査でも、高齢者ではきわめて高頻度に 眠時呼吸障害がみられるという結果が出ています。

これは60歳を過ぎると呼吸調節系の安定性が低下することが多いためです。最後の「体になんらかの異常がある場合」ですが、こうした疾患があることが原因でいびきをかく場合は、当然ながらまずその治療を最優先に行ってください。手術が必要な場合は、手術などで障害が取り除かれると、いびきも大幅に軽減されたり、治ることが多いのです。

いびきは酸素不足をもたらす

いびきをかく人は、血液中の酸素が30%前後少ない

いびきというのは「空気の通り道が狭まっているにもかかわらず、無理やり呼吸しようとするために起こる音」だといいました。
いびきをかく人は、酸素を体内に取り入れたり、炭酸ガスを排出したりという「換気機能」が十分に機能していないことになります。
とくに、大いびきを習慣的にかく人は、それだけ上気道の狭窄がひどいことが考えられ、体が慢性的な酸素不足に陥つている可能性があります。
いびきが体に負担をかけているというのはこのためなのです。
大いびきをかく人は、いびきをかかない人に比べて血液中の酸素の量が30% 前後も少なくなることもあるといわれています。

この睡眠中の酸素不足がもとで体のあらゆる機能にさまざまな悪影響を及ぼす病態を、専門的には「睡眠時呼吸障害」といいます。
睡眠時呼吸障害のなかには、最近よく耳にする「睡眠時無呼吸症候群」という病気も含まれます。
睡眠時無呼吸症候群というのは、上気道に何らかの障害があり、空気の通り道が極端に狭まっているために、睡眠中に呼吸が数十秒間も止まった状態を、一晩に何度もくり返すというショッキングな病気です。

この病気の人は、自分ではしっかり睡眠をとっているつもりでも、眠りが浅いため、朝起きると疲れが残っていたり、日中にいきなり猛烈な眠気に襲われたりします。自動車の遅転中に居眠りをしたり、会議で話している最中にいきなり眠り込むといった、ふつうの人から見ると信じられないような状態を起こすのです。

極端な場合には突然死することも

「無呼吸」とまではいかなくても、いびきによる体の酸素不足は、循環器系や呼吸器系にく悪影響をおよぼします。高血圧症をはじめ、心不全、不整脈、心筋梗塞をもたらし、極端な場合には突然死することさえあるのです。

また糖尿病にもかかりやすくなります。体内の酸素不足と二酸化炭素の増加は、血液の酸性化を促し、血中のブドウ糖の量をコントロールするインスリンというホルモンの分泌を抑えるからです。

酸素不足は、脳のはたらきにも大きく影響してきます。大いびきを習慣的にかく人は、日中、仕事や勉強においても集中力が低下しますし、それだけではなく、脳梗塞や脳卒中への道を知らずしらずにたどっているともいえるのです。このように、いびきは体に大きな負担をかけ、さまざまな病気をもたらす原因になります。もちろん、ふだんいびきをかかない人でも、お酒をたくさん飲んだときや、ひどく疲れたときなどにいびきをかくことはよくあることです。あるいはいびきをかく人でも軽いいびきであれば、さしあたつてはそれほど気にする必要はないでしょう。けれども、ひど
心配はないでしょう。大いびきを毎日習慣的にかく人は要洋意です。

いびきはこのようにして起こる

いびきのおもな原因は軟口蓋の振動

では、どうしていびきは私たちの体に負担をかけるのでしょうか。それを理解するには、まずいびきのメカニズムについて知っておく必要があります。

鼻腔からのど、気管支に至るまでの空気の通り道を「上気道」といいます。寝ているとき、この上気道がなんらかの理由によって狭まると、呼吸をするときに空気抵抗が増えて粘膜や分泌物が振動します。
この音がいびきの正体です。
つまりいびきは、空気の通り道が狭まってているにもかかわらず、無理やり呼吸しようとするために起こる音なのです。上気道にはもともと、空気の出入の抵抗となる、凹凸や狭くなったところなどがあります。こうした抵抗部分は、入ってくる空気を温めたり、空気に湿度を加えたり、また空気中のほこりなどが直接肺に入らないようにするなど、重要な役割を果たしています。

しかし逆にいえば、上気道にちょっとした障害、たとえば扁桃が腫れるなど が起こっただけで、ただでさえ抵抗が多い空気の通り道がいつそう狭まり、いびきをかきやすい状態になってしまうということでもあります。
つまり、構造的に誰もがいびきをかく素因をあらかじめ持っているわけです。振動する部位としては、鼻翼、軟口蓋や口蓋垂( のどちんこ)、舌根部、喉頭蓋などがあげられます。

とくに振動しやすいのは軟口蓋で、いびきをかく人の多く(約75% ) はこの軟口蓋の振動が原因になつています。軟口蓋というのは、上あごを舌でなぞつてみるとわかると思いますが、のど寄りの軟らかい部分です。
歯ぐきに連なる前半部の硬い部分は硬口蓋といいます。また喉頭蓋というのは、のどの奥にあって、空気が入ってくるときには開き、食べ物をのみ込むときには気ひこう管に入らないようフタを閉じる役目を負っているところです。この喉頭蓋の粘膜が肥厚していると空気抵抗を強めることになります。

それにしても、どんなに大いびきをかくといわれている人でも、ふだん起きているときの呼吸では、それほどはうるさい騒音は出ません。いびきを医学的に定義すると1 8「眠つているときだけに起こる異常呼吸音」というふうに表されるのですが、呼吸では、そのような騒音をともなってしまうのでしょうか。

睡眠中は気道が狭くなる

考える原因の1つは、眠っているときの姿勢に関係があります。私たちはふだん、立ったり座ったりして生活していることが多いのですが、なぜ睡眠中眠るときは仰向けの姿勢になります。
すると重力の影響で軟口蓋や舌根が沈み込み、空気の通り道である上気道を狭くしてしまうので、呼吸の際の空気抵抗を高めてしまうのです。

さらに、人は眠りに入ると全身の筋の緊張がゆるんできます。咽頭や舌の筋肉もゆるんで振動しやすくなります。ですからいっそういびきをかきやすくなってしまうのです。

もう1つ、起きているときと眠っているときでは、呼吸を調節している自律神経の活動も変化してきます。たとえば、夜、眠る間際に、鼻が詰まりやすくなるという人は多いと思います。これは自律神経が影響を及ぼしているためです。自律神経には、交感神経と副交感神経があります。交感神経は、昼間、私たちが活発に活動しているときには、必要な酸素量をしっかり体内に取り込めるよう、鼻の粘膜の水分を減らし、空気の通り道を広げています。

けれども夜になると、体を休ませるために交感神経は活動を弱め、代わって副交感神経が活動をはじめます。眠っているときは起きているときに比べて必要となる酸素の量も少なくて済みますから、入ってくる空気の量を少なくするために、副交感神経が鼻の粘膜の血管を広げて粘膜を腫れさせるのです。
鼻の通りが悪くなれば、当然、空気抵抗も高くなり、いびきをかきやすくなります。お酒を飲んだり疲れているときに鼻が詰まりやすくなるのも、この副交感神経のはたらきによるもので、体を休ませようとするためなのです。

このように、私たちが起きているときと眠っているときでは呼吸生理も変化します。眠っているときの呼吸は、起きているときに比べて不安定になりやすいといえるのです。

口腔と咽頭の断面図

口腔と咽頭の断面図