心臓病は3倍、脳卒中は4倍、緑内障は10倍のリスク
夜間の就寝中に「グォー」と大いびきをかいていたかと思うと、突然静かになり、数10秒後に爆発的なイビキが再開する 。そんな人は、 睡眠時無呼吸症候群 に陥っていると考えられます。
医学的には、気道( 呼吸をするときの空気の通り道 )がふさがって呼吸が10秒以上止まる状態がひと晩に30回以上、または1時間に5回以上ある場合を「 睡眠時無呼吸症候群 」といいます。
この睡眠時無呼吸症候群を「イビキがうるさいだけだろう」と簡単に片づけてはいけません。睡眠時無呼吸症候群は、高血圧や心筋梗塞・脳卒中、さらには突然死さえも招く危険な病気です。
睡眠時無呼吸症候群は、低酸素血症( 血液中の酸素が不足した状態 )を引き起こします。特に、睡眠時の無呼吸状態が1時間に30回以上ある場合、正常な呼吸をしているときに比べて、血中酸素濃度が60% 程度まで落ち込みます。これは、エベレスト山に酸素マスクなしで登ったのと同じような非常事態です。非常に危険だということです。
睡眠時の低酸素血症は、心臓や脳・血管などに大きな負担をかけます。この状態が毎晩、何年にもわたってくり返されれば、計りしれないほどの負担が心臓や脳・血管に蓄積し、さまざまな病気の発症原因となります。
睡眠時無呼吸症候群の人は、健康な人に比べて高血圧の危険が2倍、心筋梗塞や狭心症の危険が2〜3倍、脳卒中の危険が4倍、失明を招く緑内障の危険は10倍も高くなることがわかっています。
さらに、睡眠時無呼吸症候群によって体への酸素供給が停止すれば、脳の神経組織のように酸素を大量に消費する組織ほど大きなダメージを受けます( 酸素供給停止後の神経組織の生存時間は大脳で8分、小脳で13分、延髄・脊髄で45〜60分 )。もちろん、大脳がダメージを受ける前に呼吸が再開することが多いのですが、脳卒中の発症や突然死にいたる危険性が高くなるのです。
また、睡眠時無呼吸になると、心臓病による夜問の突然死が2.6倍に跳ね上がるという報告もあります。
睡眠時無呼吸症候群の注意すべき危険性
やせている人も要注意
睡眠時無呼吸症候群は、30〜60代で肥満の男性に多いといわれています。潜在的な患者数は2千万人、治療が必要な人は300万人と推定されます。
睡眠時無呼吸症候群が肥満の人に多い理由として、気道の狭さが挙げられます。気道は通常、首まわりやのどの筋肉で支えられているので、狭くなることはありません。
しかし、睡眠中は筋肉がゆるんで気道が狭くなるため、空気抵抗が大きくなります。そこを空気が通るときこうがいすいに、粘膜や口蓋垂(のどちんこ) を激しく振動させることでイビキが起こるのです。
その後、舌が気道をふさいでしまうと無呼吸が起こります。肥満によって、首まわりや舌の周囲に脂肪が多くつくと気道が狭められ、ふさがりやすくなります。
肥満の人は、そうでない人に比べて、睡眠時無呼吸症候群を発症する危険が3倍以上とされています。
では、やせていれば安心かというと、そうではありません。中高年になると、やせていても睡眠時無呼吸になる人が多いのです。日本人の場合、睡眠時無呼吸の患者さん4000例のうち、3〜4割は BMI (肥満指数)が25未満(非肥満)という報告もあります。
あおむけに寝ると気道が狭くなる
年を取ると首まわりや、のどだけでなく、舌を支える筋肉も衰えてきます。それにより、舌のつけ根が下がってくると、あおむけに寝たときに気道が狭くなってしまいます。
つまり、やせていても加齢によって舌の筋力が低下すれば、睡眠時無呼吸症候群を発症しやすくなるわけです。
女性は、男性よりも睡眠時無呼吸症候群の発症が少ないといわれています。女性ホルモンの一種であるプロゲステロンに、脳の呼吸中枢を刺激する働きがあるためです。
しかし、閉経後にプロゲステロンの分泌が減り、そこへ加齢による筋肉の衰えが重なると、睡眠時無呼吸症候群が起こりやすくなります。
閉経後の女性は、閉経前と比較して、睡眠時無呼吸の発症が3倍になるとも報告されています。健康な若い人でも、あおむけに寝ると重力によって舌や軟口蓋( のどの入り口で口蓋垂がついている部分) が下がり、気道が狭くなります。
常に口を開けて呼吸する人も、あおむけに寝ると下あごが下がり、気道が狭くなることがあります。骨格的には、あごの小さい人は気道の圧迫が起こりやすいといえます。
病医院では睡眠時無呼吸の患者さんに対し、シーパップ(鼻に装着したマスクから空気を送り込んで気道に圧力をかける治療法)などの治療が行われます。
自分でできる予防・改善法としては、肥満の人は減量する、口呼吸をやめる、寝酒や喫煙を控える、舌の筋肉を鍛える、横向きに寝る、などがあります。ぜひ実行してみてください。
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