睡眠時無呼吸症候群の検査技術

問診や視診によって睡眠時無呼吸症候群の疑いが出てきた人については、次にスクリーニング検査(簡易モニター装置による睡眠検査) を行います。

その結果、無呼吸の発作が認められると、さらにポリソムノグラフィーを用いた精密検査を行い、確定診断するのが一般的な手順です。

これらの検査についてです。そもそも睡眠時無呼吸症候群は、検査技術の進歩とともに研究・解明が進んできたといってもいいでしょう。
人の脳波を長時間にわたって連続的に記録できる技術が生まれたことで、覚醒から睡眠へ移行すると脳波が変化することがわかり、脳波を記録したデータを見れば覚醒と睡眠が客観的に判別できるようになりました。
さらに大きな進歩は、脳波や呼吸(換気)曲線、筋電図などさまざまな生態現象を長時間にわたつて連続的かつ同時に記録するポリソムノグラフィーの登場でした。つまり、この検査を行えば、呼吸の深さや呼吸状態の変化を測定でき、正常な呼吸か病的な呼吸か明確に判別できるようになったのです。

眠っている間の無呼吸発作は、なかなか自分では気づくことがありません。睡眠時無呼吸症候群の人は、その異常を家族の人から指摘されて来院するケースがほとんどです。

ですから患者本人に問診を行っても、有効な情報はなかなか得られないことが多く、どうしても睡眠中の呼吸状態を観察する必要が生じます。また呼吸状態の変化は眠りの深さと密接に関係しているので、呼吸と眠りの両方の状態を連続的に記録しなければなりません。
そこでポリソムノグラフイーの登場となるわけです。これまで見過ごされるケースもあった睡眠中の無呼吸も、ポリソムノグラフイーを用いた検査によって飛躍的に発見率が高まりました。

ただ、ポリソムノグラフイーは、脳波や眼球運動、鼻の呼吸気流、胸腹壁運動など、多くのモニターを必要とするだけに、体にさまざまな電極を装着するなど患者さんの負担も大きく、またポリソムノグラフイーを備えた施設も大学病院などに限られています。

一方、無呼吸を心配して病院に診断を受けに来る人は増えてきています。ですから一般の病院などで、もつと簡単に睡眠検査ができ、睡眠時無呼吸症候群を診断できるシステムが待ち望まれていたのです。

患者に負担がない簡易モニター

そこで開発されたのが簡易モニターです。現在、簡易モニターには「アプノモニター」や「レスピソムノグラフ」などが広く普及しています。

「アプノモニター」は、自宅で無呼吸発作の測定ができるように開発された簡易モニターです。大きさがコンパクトなこと、装着が簡単で患者の負担も少ないことから、現在、広く使われています。このシステムは鼻気流の温度変化を計るセンサーと気管音を計る小型マイク、それと心電図によって構成され、鼻の気流と気管音が同時に10秒以上停止した状態があれば、無呼吸が起きたと判定するわけです。測定データはパソコンによって解析され、無呼吸の発生状態や無呼吸の時間別頻度、心拍数のデータなども表示されるしくみになっています。一方、「レスピソムノグラフ」は、眼球運動をモニターするアクティオオキュログラフ、呼吸音センサー、手首のアクションセンサーと、換気量の変化を測定する胸腹部のバンドによって無呼吸や低換気についてのモニタリングを行う装置です。現在は、これらの検査をひとつの機器で測定できる簡易モニターも、広く使われています。ほかに睡眠中の動脈酸素飽和度の変化を測定する「パルスオキシメーター」という簡易モニターがあつて、これをレスピソムノグラフに接続して使うこともできます。

センサー装置の必要がない最新の検査方法

簡易モニターといえども、やはりいろいろな部位にセンサーを装着する必要があります。体に密着したこれらのセンサーのために、検査を受ける患者さんの睡眠中の負担は大きく、ふだんの睡眠状態とは微妙に違ってしまうことがあります。

また、寝ている間の体の動きや、トイレに行く間にセンサーがはずれてしまうといったトラブルで、検査が中断してしまうこともあります。センサーを着けない、患者さんにやさしい検査方法はないものでしょうか。じっは、センサーを装着しないで胸部と腹部の運動を記録する新しい検査方法があります。
この方法は、ビデオに睡眠中の患者さんの呼吸運動を録画して、その結果をコンビユー粥タで画像解析することにより、胸部と腹部の呼吸運動を測定・診断するというものです。検査方法の詳細は省略しますが、この検査方法は、従来の検査方法と比較しても、ほぼ同じ検杏効果が得られます。患者さんに負担をかけない検査方法として、今後、広く普及していくことを願っています。

眠りの深さもわかるポリソムノブラフイー

このように簡易モニターの技術開発は日々進歩を続けていますが、睡眠時無呼吸症候群が強く疑われる患者については、より慎重を期すため、入眠の開始時刻や眠りの深さなどについても詳しく把握できるポリソムノグラフィー検査を行います。

ポリソムノグラフイーは、中枢機能や呼吸循環についての状態を総合的に評価する睡眠モニターシステムです。睡眠中の脳波や筋電図などを同時に測定することによって、眠りの深さの推移や、眠りの周期(ノンレム睡眠やレム睡眠) などもわかるしくみになっています。ポリソムノグラフイーの一般的なモニター項目には、鼻や口の気流量(換気状態)、胸や腹部の呼吸運動、脳波、いびきの音、動脈血の酸素飽和度、眼球運動、おとがい筋の筋電図、心電図、食道内圧などがあります。自宅で睡眠検査が可能な簡易モニターと違い、ポリソムノグラフイーは病院の検査室などで行われます。

患者さんにとってははじめての環境ですし、センサーを体につけて眠るわけですから、眠りの状能首ふだんと異なることが考えられます。それらの影響を考慮して、患者さんには一晩だけではなく、ときには数日間入院してもらうこともあります。

眠気の強さを計るユニ- クな入眠潜時検査

当然ながら睡眠検査は終夜にわたつて行われるわけですが、睡眠時無呼吸症候群の人が昼間の眠気が強いことを利用して、昼間に行う検査法もあります。「入眠潜時検査」というちょっと難しい名前の検査で、その人が日中どれくらいの眠気を抱えているかを客観的に評価して、睡眠障害の度合いをみるものです。検査では、その人が床についてから眠りに入るまでの時間を測定します。10分から15分であれば軽度、逆に5分以内で眠り込んでしまうと病的な眠気と診断します。

ちなみに健康な人の寝入るまでの平均時間は、大人で10分から20分ほどです。使用する機器類はポリソムノグラフイーと同じ。朝、起床してから1時間半から3時間後に1回目の検査を行い、その後、2時間の間隔をあけて合計5回ほど実施し、その平均値で診断します。そのほかにも補助的な検査・診断が必要に応じて行われます。たとえば「閉塞型」の睡眠時無呼吸については、上気道の異常を知るための「上気道内視鏡検査」や「上気道CT検査」がそうです。「上気道内視鏡検査」では、鼻にファイバースコープを通して咽頭の異常の有無を観察し、「上気道CT検査」では、咽頭の断面積を測定します。こうした多方面からの検査によって、無呼吸発作の有無や無呼吸の状態を克明に把握し、異常部位や原因の検討が行われるのです。

いびきの音を分析・調査

自分のいびきを録音して診察してもらうといい

覚醒時の患者さんを診察して、著しい異常所見が認められれば睡眠時の無呼吸の有無を推測することもできますが、軽い狭窄だったり、診察では狭窄が見つからない場合、患者さんのいびきの音が、狭窄部位を診断したり手術を行うかどうかを決定する手がかりになることがあります。
たとえば、軟口蓋などが振動して起こるいびきは音が高く、舌根沈下や口蓋扁桃肥大などが原因で狭窄をきたして起こるいびきは音が低いという特徴があり、いびきの音を分析することで睡眠時無呼吸の有無や狭窄部位を探るわけです。ですから、いびきの悩みや無呼吸の問題で訪れた人には、自分のいびきを録音したテープを持ってきていただくことも診断の役に立ちます。

PCを使ってさらに詳細に

もっと本格的に、コンピュータを使って詳しく音響分析する方法もあります。かつては大がかりなシステムを用いて行っていましたが、最近ではパソコンを使って簡便に音響分析を行うことができます。

この場合、睡眠薬を服用してもらい、睡眠時のいびきを録音して、基本となる周波数や、その変動の様子、いびきの長さや間隔、音の強弱などを調べます。音源となる頻度がもつとも高い軟口蓋の基本周波数は20~200ヘルツ、声帯がいびきの音源になっている場合は210~300ヘルツ、喉頭蓋が音源となる振動型いびきでは45~90ヘルツと低い周波数を示すことが多いといわれています。ちなみにコントラバスのもつとも低い音が40ヘルツですから、いびきの音のなかにはずいぶんと低い音のものがあることがわかります。いびきを録音することはご家庭でも簡単にできますから、ぜひやってみて自分がどんないびきをかいているか聞いてみてください。
いびきを録音する際は、マイクやラジカセを枕元から30~40cmほど離しておきます。録音レベルは中くらいがいいでしょう。いびきを大きくとろうとして、あまり録音レベルを上げすぎると、まわりの雑音も大きく録音されてしまうため、いびきの音が明瞭に聞こえなくなります。
いびき音の分類も参考になる診断材料です。

睡眠時無呼吸の診断 その2「鼻やのど、舌のかたちをみる」

鼻が正常に通っているかををみる

こうした問診に続いて、いびきや無呼吸の原因となる上気道の狭窄があるかどうか、鼻や咽頭、喉頭を視診します。

まず鼻ですが、いうまでもなく鼻の通り具合が睡眠中の呼吸に大きく影響してきます。起きているときには自覚症状はなくても、睡眠中に鼻腔の通気障害を起こして、呼吸障害につながることもあります。

診察では、鼻粘膜の色の具合や、慢性副鼻腔炎や鼻アレルギーによる粘膜に腫れがないかどうか、鼻腔の広さ、分泌物の有無や性状、鼻中隔の攣曲の程度(ほとんどの人は多かれ少なかれ鼻中隔は曲がっており、湾曲の具合がはなはだしく、呼吸障害などを引き起こしている場合を鼻柱隔湾曲症といいます)、鼻腔の広さや鼻腔内に鼻茸ができていないかどうかなどをポイントに観察していきます。

次に上咽頭ですが、ここはアデノイド肥大や上咽頭炎、上咽頭腫瘍などの病変を起こす部位です。後鼻鏡やファイバースコープで、上咽頭に腫れや腫瘍はないか、分泌物はどうか、上咽頭の広さはどうかなどを観察します。中咽頭や下咽頭は、睡眠時無呼吸症候群やいびきの原因部位である可能性がもつとも高いところです。
この場所に起きる病変としては、口蓋屈桃肥大や舌根屈桃肥大、巨舌症、中・下咽頭腫瘍などがあります。ここでは、粘膜が赤く腫れていないか、腫瘍はないかなどを観察するとともに、軟口蓋のかたちや舌の状態に異常はないかを観察します。

とくに前後の口蓋弓の間が水かきのように膜状になっていると、呼吸にともなう口腔内の圧力の変化や舌による圧迫で変形して、上気道の閉塞やいびきの音源となります。口蓋弓が後ろにあって、後鼻鏡で上咽頭が観察しにくい場合、すでにこの部分に狭窄が起こっていることを意味します。

口蓋垂の長さと幅も重要

また口蓋垂(のどちんこ) の長さや幅も、初診時のポイントになります。口蓋垂が舌に接触するほど長いと、呼吸時にこの口蓋垂を中心とした軟口蓋が舌根部と咽頭後壁の間に吸い込まれて気道を狭窄させたり、いびきの音源になつている可能性があります。これは鏡を使って簡単に確認できますので、ぜひチェックしてみてください。

舌の視診では、舌の大きさと形態を観察します。舌は体位などによって簡単に形態や大みきさが変化する部分なので、起きている患者さんの舌を診て、睡眠時の気道への影響を推察することは大変難しいのですが、舌の大きさによって気道の広さも決まってきますから、舌の視診が重要であることには変わりありません。ここで注意を要するのはあごが小さい人です。あごが小さい人は、通常の大きさの舌でも相対的には大きくなり、舌根沈下を起こして上気道閉塞を起こしている可能性が高くなります。
また持病に末端肥大症がある人は、巨舌症を合併していることが多く、視診も慎重に行われます。

舌も自分で簡単に観察することができるので、鏡の前で口を開けてチェックしてみるといいでしょう。舌が盛り上がつた感じに見える人、あるいは「アー」と発声しなければ喉の奥にある壁が見えない人は要注意です。

最後に喉頭の診察です。喉頭も上気道のなかで高い抵抗となる部位の1つで、喉頭蓋奇形や喉頭軟化症、喉頭蓋浮腫(むくみ)などの疾患があると呼吸障害を引き起こします。

オメガ喉頭の観察は喉頭鏡やファイバースコープを使って行われます。喉頭蓋が高度に脆弱だと、吸気のときに喉頭蓋が左右両側に密着したり喉頭にふたをした状態になって気道の閉塞をきたします。また、喉頭蓋に浮腫や腫瘍があつたり、舌根沈下によって喉頭を狭窄したり閉塞するケースも多く見られます。

睡眠時無呼吸の診断 その1「問診」

まずはふだんの生活ぷりや眠っている間の状態から

睡眠時無呼吸症候群がしばしばとりあげられ、一般の人々の間でもその恐ろしさが知られるようになって以来、いびきや睡眠中の無呼吸を心配して耳鼻咽喉科外来を訪れる人が増えています。
ひとくちにいびきをかくといっても、それが治療を必要とするいびきなのかどうか、さらには病的な、放置しておくと危険ないびきなのかどうか、専門医には的確な診断をしてもらう必要があります。

病院を受診した場合は、まずふだんの生活ぶりや眠っている間の状態、さらに病歴などについて話を聞くことからはじまります。習慣的にいびきをかくか、どんなふうないびきか、呼吸が止まることはあるか、昼間に居眠りは起こすかなど、睡眠時無呼吸症候群の典型的な症状があるかどうかが問診の中心になります。

睡眠時無呼吸症候群の典型的な臨床症状を以下にまとめてあるので、該当するものがあるかどうかチェックしてみてください。

  • 習慣的にいびきをかく。
  • 睡眠中の呼吸停止がある。
  • 昼間から眠くて仕方がない、居眠りでトラブル(車の事故など)を起こしたことがある。
  • 不眠がある。
  • 起床時に頭痛がしたり、口の中が乾いている。
  • 睡眠中に異常に体を動かしてもがいたり、痙攣の発作がある。
  • 日中、体が重く息切れや立ちくらみがしたり、まっすぐに歩けないことがある。
  • 記憶力低下や集中力低下がみられる。
  • 以下のような性格変化がある
  • 疲れやすく、あまり活動的でなくなった、ものごとに無頓着になった、怒りっぽくなった、ボーッとしていることが多い、落ち着きがなく、じつとしていることができない(子供)、落ち着きがなく、じっとしていることができない、夜尿、尿失禁がある…など

また、身体的な外観的なチェックも行います。太っている人、下あごの小さい人や下あごが後退してあごのない人、短くて太い首の人などは上気道が狭くなりやすいので、それをチェックします。

持病のある人は特に注意

病歴(基礎疾患) について知ることも、睡眠時無呼吸症候群の診断をするうえで大変重要です。たとえば次のような疾患があると、睡眠時無呼吸を起こしている可能性が高まります。

上気道の疾患

  • 鼻中隔湾曲症
  • 鼻ポリープ
  • 鼻アレルギー
  • アデノイド
  • 口蓋扁桃肥大

とくに小児の大部分は、アデノイドや口蓋扁桃肥大が睡眠時無呼吸の原因になっていることが多いものです。

肺の疾患

睡眠中には上気通が狭くなりやすく、また呼吸機能も低下することは前にお話しましたが、肺に疾患があると、睡眠中に呼吸・循環器の異常がよりひどくなり、血液中の酸素不足(低酸素血症)を起こしやすくなります。

循環器に疾患がある場合

睡眠時無呼吸症候群の人には高血圧や不整脈の人が多く、逆に高血圧や不整脈の人にも睡眠時無呼吸症候群の人が多いことがわかっています。したがって高血圧、不整脈、心不全などの疾患がある人は、睡眠時無呼吸症候群がその疾患の原因に関係している可能性を念頭におく必要があるのです

内分泌に異常がある場合

舌肥大や上気道の粘膜組織が肥大する末端肥大症の人は、上気道閉塞を起こしやすくなります。また甲状腺機能が低下(甲状腺ホルモンの不足によっておこる病気) している人も舌肥大などを起こしやすくなります。

神経筋疾患がある場合

ポリオ(ポリオウィルスの感染によって起こる病気。脊髄神経をおかすために、足や腕がまひしたり、重症の場合は、胸の筋肉や横隔膜までまひが起こり、呼吸中枢である延髄がおかされると死に至ることもある) やシャイドレージャー症候群(小脳や脳幹などに変性をきたし、起立時に失神したり、排尿障害や発汗低下などの症状を持つ自律神経障害)、筋ジストロフィー、脳梗塞などの神経筋疾患が原因となり中枢型無呼吸をもたらすケースがあります。
ほかにもアルコールをよく飲むかどうか、睡眠薬や精神安定剤を常用しているかどうかも質問の対象になります。これらは呼吸中枢機能を抑制し、睡眠中の無呼吸発作を誘発することがあるからです。ここにあげたケースのうち、上気道に疾患があっていびきや睡眠時無呼吸症候群をもたたいしやらしている場合は耳鼻咽喉科で対応できますが、高血圧、肥満、代謝異常、精神障害など、他の疾患が原因に関与している場合、その治療が先決になります。ですから、そうした疾患の疑いがある人は、まず内科で健康診断を受け、異常がなければ耳鼻咽頭科で診断を受けることを最優先にします。

睡眠時無呼吸症候群の注意すべき危険性

日本での有病率は1%以上

睡眠時無呼吸症候群は当初、きわめてまれな病気であり、異常な肥満と、立ったまま居眠りするような過剰な眠気がその典型であると考えられていました。

しかし太った人でなくても、大きないびきと不眠を訴える人のなかに睡眠時無呼吸をこしているケースが報告されるようになってきました。

さらに80年代に入ると、欧米で睡眠時無呼吸症候群の有病率が次々と報告されはじめました。なんと中年男性の1%~2% が睡眠時無呼吸症候群にかかつているというのです。こうした報告は、睡眠時無呼吸症候群がまれな病気ではないことを専門家たちに印象づけ、驚きをもつて受け止められました。

その後、睡眠時無呼吸症候群の確定診断技術がより進歩し、スクリーニング法( アンケートや在宅簡易モニターによって睡眠時無呼吸症候群かどうかを診断する) も整備されたことによって、有病率のデータも更新され、現在、欧米での睡眠時無呼吸症候群の有病率は男性で4% 、女性で2% ぐらいといわれています。気になる日本の場合ですが、0歳児から高齢者まで合わせて睡眠時無呼吸症候群の患者がどれくらいいるかについては、まだ詳細なデータは出そろっていません。

しかし、いくつかの報告を総合すると、日本での睡眠時無呼吸症候群の有病率は少なくとも1% 以上にはなると考えられています。1% というと、人口10万人に対して1000人であり、これはぜんそくの患者数にほぼ匹敵するほどの数字です。参考までに、日本人で習慣性いびきをかく人は、男性で21% 、女性で6% という数字があります。いびきもそうですが、睡眠時無呼吸症候群にかかる人で女性が少ないのは、女性ホルモが睡眠時無呼吸症候群を抑制しているから、という指摘があります。

実際、睡眠時無呼吸症候群を発症する年齢は、男性では働き盛りの50歳代がピークですが、閉経後の女性にも多いのです。また女性ホルモンのひとつであるプロゲステロン製剤の投与が、短期的には睡眠時無呼吸症候群に有効であることも確認されています。

小児の場合ですと、鼻やのどの疾患が睡眠融叫呼吸症候群の原因であることが多いので、男女に有病率の差はありません。

さまざまな合併症を引き起こす

睡眠時無呼吸症候群の恐ろしさの1つは、さまざまな合併症を引き起こすことです。睡眠時無呼吸症候群の人は、たとえば高血圧や不整脈など循環器系の障害を引き起こしやすくなります。また、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞など、心臓・脳血管疾患と合併する確率も高くなります。
ちなみにアメリカの調査では、睡眠時無呼吸症候群の人が狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患にかかる率は、そうでない人に比べて3倍、脳卒中は4倍という結果が出ています。これらの病気を併発してしまう原因として、眠っているあいだの無呼吸の状態が体に酸素不足をもたらし、血管を収縮させること、同じく血液中の酸素不足が赤血球を増加させ、血液の粘性を高めてしまうことなどがあげられます。

高血圧

とくに睡眠時無呼吸症候群と合併しやすいのが高血圧です。本態性高血圧症(疾患があって高血圧を起こすのではなく、原因が不明の高血圧でほとんどの場合がこれにあてはまります)の人が睡眠時無呼吸症候群にかかる割合は、22%~48% 、逆に睡眠時無呼吸症候群の人が高血圧症にかかる割合は、なんと45~90%% に達するというデータがあります。

ただ、睡眠時無呼吸症候群に高血圧を合併した場合、無呼吸を治療することによって、高血圧はすみやかに治ります。そこが降圧剤を使ってもなかなか完治しない本態性高血圧と大きく違うところです。睡眠時無呼吸症候群に高血圧が合併しやすいのは、(患者に中高年や肥満体の人が多いこともありますが)睡眠時無呼吸症候群特有の病態である夜間の低酸素血症や、交感神経活動の亢進(睡眠時無呼吸症候群の人は昼間目ざめているときだけでなく、夜間も無呼吸を起こすことによって、交感神経が興奮し続けているのです) が、大きく影響していると考えられています。血液中の酸素が不足すると必然的に二酸化炭素が増えます。すると肺の血管が縮んで肺高血圧を引き起こします。さらに交感神経も興奮して心臓の拍出量を増大させ、体全体の血圧も上がるというわけです。

「閉塞型」無呼吸症候群の人の場合、夜間の血圧の無呼吸の周期とぴったり一致して変化するのが特徴です。無呼吸をのあとに呼吸を再開するときに、閉塞型の人は激しくあえだり大きな声でいびきをかくことは前に述べましたが、その際、脳の覚醒反応によって交感神経が一時的に興奮し、収縮期血圧で100mmHG以上も上昇します。これが一晩中、何百回とくり返されるわけですから、高血圧を招くのも無理はありません。高血圧症が慢性重症化した場合、心筋梗塞や脳梗塞へ発展する危険もありますので要注意です。

不整脈

交感神経の興奮は不整脈を引き起こすこともあります。睡眠時無呼吸症候群の人が引き起こす不整脈は、無呼吸中に脈拍が少なくなり、呼吸が回復したときに脈拍が増えるというパターンを示すのが特徴です。そしてこの不整脈が、夜間の突然死や、最近頻発している乳児突然死症候群(SIDS) の原因と関係しているのではないかと、かねてから注目されてきました。

いびきや無呼吸で悩んでいる人が、いちばん心配しているのも「自分は眠っている間に呼吸が止まって死ぬのではないか」ということではないでしょうか。睡眠時無呼吸症候群の患者227人の症例を調べたところ、5年間で3例が突然死を起こしているという調査報告があります。

ただし、この数字は特別多いことを意味するものではありません。しかも睡眠中の死亡は1例もなく、出勤途中、ジョギング中、手術後に死亡しているということでした。そもそも突然死と、睡眠時無呼吸症候群に併発する不整脈との関連が注目されたのは、睡眠時無呼吸症候群の患者の睡眠中の心電図をモニターしたところ、異常な心電図が多くみられ、しかも昼間はそうした異常が認められなかつたことが発端となっています。

しかしその後の報告では、睡眠時無呼吸症候群の人の不整脈の頻度は、正常な人の不整脈の頻度とそれほど違わないことがわかってきており、現在では不整脈による突然死は、睡眠時無呼吸症候群ではそれほど問題にはならないという見方が強まっています。

しかし、だからといって油断はできません。睡眠時無呼吸症候群の人は、症状が重くなると重度の不整脈(心室性不整脈など) を招く頻度が高く、とくに重い心疾患を持つ「中枢型」無呼吸症候群の人は、突然死をもたらしかねない心室性頻拍症にまで発展する可能性もあるからです。

糖尿病

血液中のブドウ糖をコントロールしているインスリンというホルモンがあります。糖尿病というのは、このインスリンの合成や分泌障害によって血糖値などの代謝奨常を引き起こす病気です。睡眠時無呼吸症候群の人が糖尿病にかかりやすくなるのは、無呼吸による酸素不足や血液の酸性化が、このインスリンの分泌を抑えるためと考えられています。

虚血性心疾患

虚血性心疾患とは、動脈硬化などによって血流が極度に減少し、それが原因となって引き起こされる心疾患のことです。閉塞型無呼吸症候群の人には、肥満や高血圧症を抱えていることが多く、冠動脈硬化症(心臓の筋肉に血液を送る冠動脈がかたく細くなって血液の流れが悪くなる病気) を起こす率も高くなります。事実、虚血性心疾患の人の20% に睡眠時無呼吸症候群が認められるという報告があるほどです。

また、中枢型無呼吸症候群の人は、狭心症の一種で、夜間の就寝中に起こる異型狭心症と合併するケースもしばしばみられます。異型狭心症は、睡眠時無呼吸と同じように、中年以上の男性に多く、睡眠周期ではレム睡眠期に起こりやすいという特徴がありますが、狭心症の発作と無呼吸との時間的な一致は認められず、睡眠時無呼吸症候群が直接の原因になつているかどうか、その関連についてはまだわかっていません。

心不全

心臓の機能が低下した結果、心臓から全身に送られる血液の量が不足するとともに、肺うっ血(肺に血液がたまる状態) などを起こした状態が心不全です。これは心筋症や虚血性心疾患など、心臓の機能の低下と調節系の反応が加わつた全身的な変化であり、いつてみればそれを総称して心不全と呼んでいるわけです。

睡眠時無呼吸症候群が、さまざまな病気をもたらす大きな理由の1つに、上気道の閉塞による体の酸素不足があげられますが、もう1つ、重要な側面があります。
それは、上気道が閉塞しているにもかかわらず、無理に呼吸しようとするため、胸腔な内に陰圧(内部の圧力が外部の圧力より低い状態) が生じてしまうことです。
たとえば睡眠時無呼吸症候群の子どもには、胸部が漏斗状に凹んでいる状態がよく見られます。これは、睡眠時に無呼吸をくり返し、胸腔内が陰圧になっている状態が長く続いたために起きてしまったた現象なのです。

精神への影響

睡眠時無呼吸症候群の人は、夜中に何度も目ざめたり、朝は頭痛がしたり、だるさを感じることが多いのですが、こうした症状は実はうつ病の特徴でもあるのです。睡眠時無呼吸症候群の人に心理テストを行ったところ、28% の人に抑うつ傾向がみられたという報告があります。質のいい睡眠がとれないことによってうつ病になりやすいということです。

睡眠時無呼症候群の患者は生存率が低い

こうしてみてきたように、睡眠時無呼吸症候群は多くの合併症を呼び起こす病気です。それだけに、睡眠時無呼吸症候群の人は、確実に命を縮めいるといえなくもありません。
実際、「睡眠時呼吸障害の患者は、障害のない人に比べて生命予後が短い」という、とてもショッキングな事実がアメリカで報告されています。とくに重症の睡眠時無呼吸症候群の場合は予後が悪く、1時間あたりの無呼吸回数が20回を超える重度の人の場合、調査を行った8年間で生存率が63% しかなかったというのです。
睡眠時無呼吸症候群の死亡率には心血管系疾患の合併が大きく影響しています。したがって、睡眠時無呼吸症候群の積極的な治療はもちろんのこと、合併症についても早期発見と適切な治療が重要なポイントになります。