2015年 1月 の投稿一覧

いびきの音を分析・調査 睡眠時無呼吸の有無や狭窄部位を探る

自分のいびきを録音して診察してもらうといい

覚醒時の患者さんを診察して、著しい異常所見が認められれば睡眠時の無呼吸の有無を推測することもできますが、軽い狭窄だったり、診察では狭窄が見つからない場合、患者さんのいびきの音が、狭窄部位を診断したり手術を行うかどうかを決定する手がかりになることがあります。
たとえば、軟口蓋などが振動して起こるいびきは音が高く、舌根沈下や口蓋扁桃肥大などが原因で狭窄をきたして起こるいびきは音が低いという特徴があり、いびきの音を分析することで睡眠時無呼吸の有無や狭窄部位を探るわけです。ですから、いびきの悩みや無呼吸の問題で訪れた人には、自分のいびきを録音したテープを持ってきていただくことも診断の役に立ちます。

PCを使ってさらに詳細に

もっと本格的に、コンピュータを使って詳しく音響分析する方法もあります。かつては大がかりなシステムを用いて行っていましたが、最近ではパソコンを使って簡便に音響分析を行うことができます。

この場合、睡眠薬を服用してもらい、睡眠時のいびきを録音して、基本となる周波数や、その変動の様子、いびきの長さや間隔、音の強弱などを調べます。音源となる頻度がもつとも高い軟口蓋の基本周波数は20~200ヘルツ、声帯がいびきの音源になっている場合は210~300ヘルツ、喉頭蓋が音源となる振動型いびきでは45~90ヘルツと低い周波数を示すことが多いといわれています。ちなみにコントラバスのもつとも低い音が40ヘルツですから、いびきの音のなかにはずいぶんと低い音のものがあることがわかります。いびきを録音することはご家庭でも簡単にできますから、ぜひやってみて自分がどんないびきをかいているか聞いてみてください。
いびきを録音する際は、マイクやラジカセを枕元から30~40cmほど離しておきます。録音レベルは中くらいがいいでしょう。いびきを大きくとろうとして、あまり録音レベルを上げすぎると、まわりの雑音も大きく録音されてしまうため、いびきの音が明瞭に聞こえなくなります。
いびき音の分類も参考になる診断材料です。

睡眠時無呼吸の診断 その2「鼻やのど、舌のかたちをみる」

鼻が正常に通っているかををみる

こうした問診に続いて、いびきや無呼吸の原因となる上気道の狭窄があるかどうか、鼻や咽頭、喉頭を視診します。

まず鼻ですが、いうまでもなく鼻の通り具合が睡眠中の呼吸に大きく影響してきます。起きているときには自覚症状はなくても、睡眠中に鼻腔の通気障害を起こして、呼吸障害につながることもあります。

診察では、鼻粘膜の色の具合や、慢性副鼻腔炎や鼻アレルギーによる粘膜に腫れがないかどうか、鼻腔の広さ、分泌物の有無や性状、鼻中隔の攣曲の程度(ほとんどの人は多かれ少なかれ鼻中隔は曲がっており、湾曲の具合がはなはだしく、呼吸障害などを引き起こしている場合を鼻柱隔湾曲症といいます)、鼻腔の広さや鼻腔内に鼻茸ができていないかどうかなどをポイントに観察していきます。

次に上咽頭ですが、ここはアデノイド肥大や上咽頭炎、上咽頭腫瘍などの病変を起こす部位です。後鼻鏡やファイバースコープで、上咽頭に腫れや腫瘍はないか、分泌物はどうか、上咽頭の広さはどうかなどを観察します。中咽頭や下咽頭は、睡眠時無呼吸症候群やいびきの原因部位である可能性がもつとも高いところです。
この場所に起きる病変としては、口蓋屈桃肥大や舌根屈桃肥大、巨舌症、中・下咽頭腫瘍などがあります。ここでは、粘膜が赤く腫れていないか、腫瘍はないかなどを観察するとともに、軟口蓋のかたちや舌の状態に異常はないかを観察します。

とくに前後の口蓋弓の間が水かきのように膜状になっていると、呼吸にともなう口腔内の圧力の変化や舌による圧迫で変形して、上気道の閉塞やいびきの音源となります。口蓋弓が後ろにあって、後鼻鏡で上咽頭が観察しにくい場合、すでにこの部分に狭窄が起こっていることを意味します。

口蓋垂の長さと幅も重要

また口蓋垂(のどちんこ) の長さや幅も、初診時のポイントになります。口蓋垂が舌に接触するほど長いと、呼吸時にこの口蓋垂を中心とした軟口蓋が舌根部と咽頭後壁の間に吸い込まれて気道を狭窄させたり、いびきの音源になつている可能性があります。これは鏡を使って簡単に確認できますので、ぜひチェックしてみてください。

舌の視診では、舌の大きさと形態を観察します。舌は体位などによって簡単に形態や大みきさが変化する部分なので、起きている患者さんの舌を診て、睡眠時の気道への影響を推察することは大変難しいのですが、舌の大きさによって気道の広さも決まってきますから、舌の視診が重要であることには変わりありません。ここで注意を要するのはあごが小さい人です。あごが小さい人は、通常の大きさの舌でも相対的には大きくなり、舌根沈下を起こして上気道閉塞を起こしている可能性が高くなります。
また持病に末端肥大症がある人は、巨舌症を合併していることが多く、視診も慎重に行われます。

舌も自分で簡単に観察することができるので、鏡の前で口を開けてチェックしてみるといいでしょう。舌が盛り上がつた感じに見える人、あるいは「アー」と発声しなければ喉の奥にある壁が見えない人は要注意です。

最後に喉頭の診察です。喉頭も上気道のなかで高い抵抗となる部位の1つで、喉頭蓋奇形や喉頭軟化症、喉頭蓋浮腫(むくみ)などの疾患があると呼吸障害を引き起こします。

オメガ喉頭の観察は喉頭鏡やファイバースコープを使って行われます。喉頭蓋が高度に脆弱だと、吸気のときに喉頭蓋が左右両側に密着したり喉頭にふたをした状態になって気道の閉塞をきたします。また、喉頭蓋に浮腫や腫瘍があつたり、舌根沈下によって喉頭を狭窄したり閉塞するケースも多く見られます。

睡眠時無呼吸の診断 その1「問診」

まずはふだんの生活ぷりや眠っている間の状態から

睡眠時無呼吸症候群がしばしばとりあげられ、一般の人々の間でもその恐ろしさが知られるようになって以来、いびきや睡眠中の無呼吸を心配して耳鼻咽喉科外来を訪れる人が増えています。
ひとくちにいびきをかくといっても、それが治療を必要とするいびきなのかどうか、さらには病的な、放置しておくと危険ないびきなのかどうか、専門医には的確な診断をしてもらう必要があります。

病院を受診した場合は、まずふだんの生活ぶりや眠っている間の状態、さらに病歴などについて話を聞くことからはじまります。習慣的にいびきをかくか、どんなふうないびきか、呼吸が止まることはあるか、昼間に居眠りは起こすかなど、睡眠時無呼吸症候群の典型的な症状があるかどうかが問診の中心になります。

睡眠時無呼吸症候群の典型的な臨床症状を以下にまとめてあるので、該当するものがあるかどうかチェックしてみてください。

  • 習慣的にいびきをかく。
  • 睡眠中の呼吸停止がある。
  • 昼間から眠くて仕方がない、居眠りでトラブル(車の事故など)を起こしたことがある。
  • 不眠がある。
  • 起床時に頭痛がしたり、口の中が乾いている。
  • 睡眠中に異常に体を動かしてもがいたり、痙攣の発作がある。
  • 日中、体が重く息切れや立ちくらみがしたり、まっすぐに歩けないことがある。
  • 記憶力低下や集中力低下がみられる。
  • 以下のような性格変化がある
  • 疲れやすく、あまり活動的でなくなった、ものごとに無頓着になった、怒りっぽくなった、ボーッとしていることが多い、落ち着きがなく、じつとしていることができない(子供)、落ち着きがなく、じっとしていることができない、夜尿、尿失禁がある…など

また、身体的な外観的なチェックも行います。太っている人、下あごの小さい人や下あごが後退してあごのない人、短くて太い首の人などは上気道が狭くなりやすいので、それをチェックします。

持病のある人は特に注意

病歴(基礎疾患) について知ることも、睡眠時無呼吸症候群の診断をするうえで大変重要です。たとえば次のような疾患があると、睡眠時無呼吸を起こしている可能性が高まります。

上気道の疾患

  • 鼻中隔湾曲症
  • 鼻ポリープ
  • 鼻アレルギー
  • アデノイド
  • 口蓋扁桃肥大

とくに小児の大部分は、アデノイドや口蓋扁桃肥大が睡眠時無呼吸の原因になっていることが多いものです。

肺の疾患

睡眠中には上気通が狭くなりやすく、また呼吸機能も低下することは前にお話しましたが、肺に疾患があると、睡眠中に呼吸・循環器の異常がよりひどくなり、血液中の酸素不足(低酸素血症)を起こしやすくなります。

循環器に疾患がある場合

睡眠時無呼吸症候群の人には高血圧や不整脈の人が多く、逆に高血圧や不整脈の人にも睡眠時無呼吸症候群の人が多いことがわかっています。したがって高血圧、不整脈、心不全などの疾患がある人は、睡眠時無呼吸症候群がその疾患の原因に関係している可能性を念頭におく必要があるのです

内分泌に異常がある場合

舌肥大や上気道の粘膜組織が肥大する末端肥大症の人は、上気道閉塞を起こしやすくなります。また甲状腺機能が低下(甲状腺ホルモンの不足によっておこる病気) している人も舌肥大などを起こしやすくなります。

神経筋疾患がある場合

ポリオ(ポリオウィルスの感染によって起こる病気。脊髄神経をおかすために、足や腕がまひしたり、重症の場合は、胸の筋肉や横隔膜までまひが起こり、呼吸中枢である延髄がおかされると死に至ることもある) やシャイドレージャー症候群(小脳や脳幹などに変性をきたし、起立時に失神したり、排尿障害や発汗低下などの症状を持つ自律神経障害)、筋ジストロフィー、脳梗塞などの神経筋疾患が原因となり中枢型無呼吸をもたらすケースがあります。
ほかにもアルコールをよく飲むかどうか、睡眠薬や精神安定剤を常用しているかどうかも質問の対象になります。これらは呼吸中枢機能を抑制し、睡眠中の無呼吸発作を誘発することがあるからです。ここにあげたケースのうち、上気道に疾患があっていびきや睡眠時無呼吸症候群をもたたいしやらしている場合は耳鼻咽喉科で対応できますが、高血圧、肥満、代謝異常、精神障害など、他の疾患が原因に関与している場合、その治療が先決になります。ですから、そうした疾患の疑いがある人は、まず内科で健康診断を受け、異常がなければ耳鼻咽頭科で診断を受けることを最優先にします。