睡眠時無呼吸症候群の治療その3「薬物療法」

女性に睡眠時無呼吸症候群の人が少ないのは、女性ホルモンが関与しでいるからではないかとみられています。女性の黄体期や妊娠期にはプロゲステロンというホルモンが増加し、肺の換気量が増大します。また、慢性の閉塞性肺疾患の人にプロゲステロン製剤を投与すると、呼吸が刺激されることもわかっています。

そこで睡眠時無呼吸症候群の人にプロゲステロン製剤を投与したところ、呼吸の改善に効果があつたという報告があります。このように睡眠時無呼吸症候群の比較的軽い症例については、薬物療法もある程度は有効とされていますが、率直にいって重度の人にも効く治療薬というものはまだなく、現在も研究が重ねられているところです。

かなりのスピードで睡眠時無呼吸症候群の解明が行われてきているものの、比較的新しい病気ゆえ、まだまだ解明しなけばならない問題もたくさんあるというのが実情です。薬物療法で用いられる薬は大きく分けると、呼吸刺激剤、向精神薬、そして上気道を継続して広げるはたらきをする薬などがあります。少し専門的になりますが、それぞれの種類の薬について、詳しく述べてみましよう。

呼吸刺激剤

さきほどのプロゲステロン製剤は呼吸刺激剤の1つで、呼吸中枢を刺激するはたらきがあります。したがって「中枢型」無呼吸や肺胞低換気などに効果があります。

ほかにアセタゾラマイドという刺激剤も「中枢型」無呼吸に対して効果があり、夜間の無呼吸の回数や中途覚醒が減って自覚症状も改善したという欧米での報告があります。
日本でもアセタゾラマイドの効果を検討するため臨床試験が行われた結果、有効率は7割弱。これはかなり有望な数字で、「中枢型」ばかりでなく、軽度の「閉塞型」無呼吸の人の薬物治療法として期待が持たれています。副作用は、手足のしびれ、頻尿、胃部の不快感などです。

ただし、アセタゾラマイドは肺に重い機能障害がある人や原発性肺胞低換気症候群の人には適応しません。一方、「閉塞型」無呼吸に対して試みられている呼吸刺激剤としては、ドパーミンを阻害するプロクロルベラジンなどがあります。プロクロルぺラジンは一部の閉塞型無呼吸の人には効き目が認められたものの、「中枢型」にはまつたく無効で、残念ながら睡眠時無呼吸症候群の治療薬としては見込みが薄いようです。

向精神薬(抑うつ剤)

群の人は、夜中に何度も目ざめることが多く、眠りが分断されるため、レム睡眠の回数をかえって増加させるという悪循環のなかにいます。

三環系抑うつ剤と呼ばれる種類の薬は、眠りのなかでこのレム睡眠が出現するのを抑えることで、等吸数を減らすものです。このほか、頤舌筋の活動を高め、舌根沈下を抑えるはたらきがあることも報告されています。三環系抑うつ剤は、重度の睡眠時無呼吸症候群の人には適応できませんが、軽症~中等度であれば有用とされています。ただ、副作用として、口が渇きやすくなったり、排尿困難、不整脈を起こす可能性も指摘されています。
睡眠中に無呼吸が起こる率がいちばん高いのがレム睡眠のときです。睡眠時無呼吸症候群の人は、夜中に何度も目ざめることが多く、眠りが分断されるため、レム睡眠の回数をかえって増加させるという悪循環のなかにいます。

上気道を広げるはたらきがある薬

鼻が詰まっていると、いびきをかきやすく、無呼吸をきたしやすくなります。また夜中に頻繁に目がさめることになります。鼻が詰まったときに最に噴霧する薬は一般にも市販されています。血行をよくすることで鼻詰まりを和らげるものですが、睡眠時無呼吸症候群の要人も、こうした薬を使用してみる価値はあるでしょう。

睡眠時無呼吸症候群の薬物療法として、ほかにもさまざまな薬についての研究・検討が行われています。将来、もつと有効な薬が現れるかもしれませんが、いまのところ薬物療法は軽度の人についてのみ、あるいは補助的な治療法として用いられているのが現状です。

睡眠時無呼吸症候群の治療その2「内科的治療が必要ならそちらを優先」

体のどこかに疾患があり、それがもとで睡眠時無呼吸症候群を起こしている人は、その治療を行うと無呼吸は顕著に改善されます。
しかし、そうした基礎疾患をともなわない睡眠時無呼吸症候群の人が、数の上では多数を占めます。その場合、睡眠時無呼吸自体に対しての治療を行わなければなりません。

治療の方法としては、持続陽圧呼吸装置(CPAP)の導入や夜間の酸素吸入などの内科的治療と、気管切開術や咽頭拡大術などの外科的治療に大きく分けることができます。それぞれどのような方法があるか、まずは内科的治療からみてみましょう。

効果をあげるCPAP療法

睡眠時無呼吸症候群における内科的治療で、もつとも効果がある方法として知られているのが持続陽圧呼吸装置(CPAP)を使った治療です。CPAPというのは、鼻にゴムマスクのようなものを装着し、コンプレッサーによって空気を持続的に鼻から上気道へ送り込むことで上気道の閉塞を防ぐという方法です。中~重度の睡眠時無呼吸症候群の治療方法として中心的なものになっています。
CPAPは一般に販売されているものではなく治療用具であるため、使用にあたっては医療機関で医師の診断を受ける必要があります。

下あごを前方に固定して気道を広げるスリープスプリント

スリープスプリントも高い有効性を示す治療器具の1つです。これは夜眠るときにマウスピースのようなものを口のなかに装着することで、下あごを前に引き出し、舌根の沈下を防止し、気道を確保するというものです。
口を開けて眠る習慣のある人はいびきをかきやすく、無呼吸も起こしやすくなります。
これは舌根沈下などの原因のほかに、口の中が乾燥して摩擦抵抗が増えて上気通が塞がりやすくなることも関係しているのですが、スリープスプリントを装着すると上下のあごが固定されるため、しぜんに口を閉じて鼻呼吸する習慣がつきます。また口に装着していると唾液の分泌をうながすので、口の中の乾燥を防ぐという効果もあります。

覚醒回数を減らす酸素療法

睡眠時無呼吸症候群が恐ろしいのは、低酸素血症つまり血液中の酸素不足が引き金となって体にさまざまな悪影響を及ぼすことです。
そこで酸素不足を補うために睡眠時に酸素吸入を行うというのが酸素療法の発想です。酸素療法は、CPAPと同じように鼻にマスクなどを装着し、最初は1分間に1Lから4Lくらいの酸素を鼻腔に送り込みます。治療開始直後は、一時的に無呼吸状態でいる時間が延びることもありますが、日数がたつと無呼吸の時間も締まっていきます。

手軽に試せる鼻孔拡張テープ

最近、スポーツ選手などが、絆創膏を小さくしたようなテープを鼻に貼っているのを見ことはありませんか。これは鼻孔を広げて酸素の吸入量を増やす目的で使われているものです。
テープには2本のプラスチック製のバーが内蔵されています。そしてテープを鼻腔の上あたりに貼ると、鼻に沿って曲がつたバーが戻ろうとする力によって鼻腔が持ち上げられ拡張するしくみになっています。

鼻孔拡張テープはこちら。

鼻孔拡張テープは、誰でも安全かつ気軽に使用できます。薬品類が使われていないので、妊婦や高齢の方でも大丈夫です。鼻の通りが悪くていびきをかく人などは、ぜひ試してみるといいでしょう。もともと鼻炎もちの人には効果があるでしょう。

睡眠時無呼吸症候群の治療その1「肥満ならまず痩せる」

最優先事項は「ダイエット」

いびきをかく人は肥満の人が多い、ということをこれまでくり返し述べてきました。一般的には標準体重を10%超えると肥満、20% を超えると肥満症と呼ばれますが、欧米では「閉塞型」無呼吸症候群の人の、じつに6~7割が、標準体重を20% 以上も上回る肥満症の人という調査があります。
ちなみに肥満の指標は、現在BMIで、計算されます。

BMIについてはこちら。

肥満の人の場合、のどの内側に脂肪が厚く付着して気道を狭めていることが多いので、イまず減車をレというのが治療の鉄則とされています。ですから、なんといつても肥満の原因を明らかにして、理想体重近くまで体重を落とすことが大切です。
減量方法として一般的なのが「低カロリー療法」です。これは、体が必要とする量よりも摂取カロリーを低く抑えるという方法です。
人が一日に必要とするカロリーは年齢などによっても当然違ってきますが、「低カロリー療法」では摂取カロリーを一日8001200kcalに抑えるのが通例です。

極度の肥満には「超低カロリー療法」も必要

また極度の肥満の人の場合、糖質や脂質を可能な限り制限し、摂取カロリーを1日300~800kcalに抑えるという「超低カロリー療法」もあります。
大変過激な方法ですが、高タンパクな食事をとることと、3ヶ月以内の短期間で行うこと、そして体重が理想体重より40% 以上上回つているという条件を満たす人なら、このような療法もあります。
しかしこのような方法は、医師のもとで指導されていることは絶対条件であり、素人が勝手に行うことはできません。この「超低カロリー療法」で口に入れるもののメニューには、ビタミンなどの微量栄養素が適切にバランスされていなければならないからです。「超低カロリー療法」は、短期間でかなり確実に体重を落とせる方法なのですが、注意しなければならないのは、せっかく減量に成功して、睡眠時無呼吸症候群の症状が改善しても、その体重を維持することがかなり難しいことです。

ある調査によれば1年で3分の2の人が再びもとに戻ってしまい、体重を維持できたのはわずか3%だったといいます。したがつて医師などから長期的に指導を受けることが必要です。

手術による減量法も

さまざまな減量を試してはみたものの、すべて失敗に終わった人や、減量することで生命の危機から確実に回避できると診断された場合、手術によって減量化する方法もあります。
しかし、肥満の人が減量した結果、睡眠中の無呼吸や酸素飽和度の低下、不整脈が顕著に改善されたという報告は多数あります。軽度であれば、減量するだけでも睡眠時無呼吸症候群は克服できるのです。
ただ、太っている人で上気道に疾患がある場合は、減量だけではいびきや無呼吸を完全になくすことはできません。減量とともにその治療を行う必要があります。また当然ながら減量には運動も大切です。ただしなにかの病気が原因で太ってしまっている場合は、運動僚法は避けたほうがいいことはいうまでもありません。

早食いが肥満の原因になる理由

なども生活習慣の中で修正していく必要がありそうです。
特に男性ではすごいスピードで食事を食べる人がいますので注意が必要です。

高齢者の診断基準と重症度の判定

加齢により睡眠時無呼暇を起こす割合は高くなる

睡眠時無呼吸症候群の診断基準は「ひと晩の睡眠(7時間) で、10秒以上続く無呼吸(低呼吸も含める考え方もあります) が、30回以上ある場合、または一時間あたりの無呼吸数が5回以上ある場合」です。

けれども、この診断基準を提唱した博士が高齢者を含まない対象での研究をもとに基準を設定したため、こと高齢者においては基準を考え直す必要があるのではないかという指摘も最近ではなされています。
というのも、その後の研究で、加齢とともに睡眠時無呼吸症候群を発症する率が高いことと合わせて、睡眠障害や循環器系の疾患がない人でも、加齢とともに睡眠時無呼吸を起こす率が高くなることがわかつてきたからです。

重症度の評価は、いまも検討が重ねられている

こうした要素を考慮に入れて、1986年にはより厳密に「異常ないびきや昼間の傾眠傾向をともなう睡眠時の閉塞型、または混合型の無呼吸により、潜在的に生命の危険をともなう状態、老人を除いて7時間の睡眠中に30回以上の呼吸停止をともなう状態」と細かく定義されるようになりました。

また、最近では1時間あたりの無呼吸数と低呼吸数が10回~15五回以上を睡眠時無呼吸症候群の診断基準として採用しているところもあります。
このように睡眠時無呼吸症候群の診断基準は、その評価法が検討されている過程にあります。睡眠時無呼吸症候群の重症度の判定についても同様で、いろいろな評価法が検討されています。たとえば睡眠中の1時間あたりの無呼吸数と低呼吸数を評価のものさしにして、軽度10~39回まで、中等度40~79回まで、重度80回以上とする分類。これに血液中の酸素飽和度を組み合わせた評価法で、次のような分類もあります。

  • 軽度
    最低酸素飽和度が85% 以上で、1一時間あたりの無呼吸数と低呼吸数が330回以下のもの。昼間の居眠り傾向はなし。
  • 中等度
    最低酸素飽和度が75%~84% で、1時間あたりの無呼吸数と低呼吸数が30回以上。昼間の居眠り傾向が認められるもの。
  • 重度
    最低酸素飽和度が51%~74% 。
  • 最重度
    最低酸素飽和度が51% 以下、または、1時間あたりの無呼吸数と低呼吸数が60回以上、または不整脈などの心臓の症状があるもの。

話が少し専門的になってしまいましたが、睡眠時無呼吸症候群の軽症、重症の度合いについて、おおよそイメージできたのではないでしょうか。医療の現場では、ここにあげた睡眠中の無呼吸の回数や持続時間、どの程度酸素飽和度が低下しているかといったほかにも、不整脈の有無、昼間の呼吸不全、心不全徴候、血栓性疾患などの有無を参考にして、患者さんの危険の程度を推定しているのです。

治療が必要ないびきの程度(診断に重要な6項目)

専門家でも判断が難しい

健康な人でも睡眠中に無呼吸などの呼吸異常を起こすことがあることがあります。そうした呼吸異常と、治療を要する睡眠時無呼吸症候群の区別を明確につけることは、きには困難なことがあります。

また、無呼吸や低呼吸、低酸素血症がなくても、睡眠にともなう上気道の抵抗が増えただけで( つまり、いびきであつてもそれがひどい場合は) 睡眠時無呼吸症候群のように昼間の居眠りをきたすこともあり、診断をより複雑にしています。

もっと複雑な問題もあります。診断には「治療適示の診断」というものがあります。これは、治療を要するかどうかの診断基準です。

いびきも睡眠時無呼吸症候群も、ともに上気道の狭窄によって起こる「睡眠時呼吸障害」といえます。けれども、いびきと睡眠時無呼吸症候群とでは、治療を要するかどうかを診断する視点が異なってきます。
たとえばいびきの場合、いまのところは健康を損なうほどの障害には至っていないいびきもあります。これは一般的な意味では「病気」とはいえないいびきです。とはいえ本人が、いびきの音で社会生活に支障をきたしていると感じており、治したいと思っているならば、これは治療の対象となります(しかし、本人神経質で、他人への迷惑を過剰に考えすぎて悩んでいる場合は別ですが)。

このように、睡眠時呼吸障害に関する診断は、本人の体にどれだけ危険であるかに加えて、社会生活への影響という視点からも診断を下さなければなりません。そこが通常の病気の診断とは異なるところです。では具体的に、どの程度の症状になると治療が必要となるのでしょう。これはみなさんもぜひ知りたいところではないでしょうか。

睡眠時無呼吸障害の重症度の判断

  1. かすかな、あるいは静かないびきで、呼吸は規則的、いびきのない状態に比べて多少の狭窄はあるが本人には無害。周囲の人もよほど神経質でない限り困らない。
  2. 大きな振動型のいびきをかくが、呼吸は規則的。本人にはおそらく無害。けれども一緒に寝ている家族などを悩ませる。加齢により将来は睡眠時無呼吸症に移行する可能性は少なくない。
  3. 狭窄型いびきで呼吸は不規則で低呼吸、無呼吸がある。周囲の人をいびきで悩ませる。けれどもまだ換気障害が軽いため本人には自覚症状がほとんどない。
  4. 狭窄型いびきで、高度の低呼吸、無呼吸がある。これにより夜間に何度も目が覚めてしまうので睡眠が不十分。昼間傾眠が起こる。しかしまだ全身疾患の原因とはなっていない。
  5. 高度な睡眠時呼吸障害により高血圧などの全身疾患が起こっている。また病的な昼間傾眠があり、他人と話している最中に眠ってしまったりする。
  6. 高度な睡眠時換気障害があり、その影響による種々の全身症状のため、通常の社会生活が送れない。心疾患悪化による突然死の危険さえある。

この中で1は放置しておいてもよく、2は社会生活を考えると治療を必要とし、また、4、5、6は本人のために治療が必要となる。3はその中間にって、治療の目的はケースバイケースとなる。この基準は実に明快な位置づけだと思います。あなたの症状のチェックにぜひ参考になるでしょう。