睡眠時無呼吸症候群の治療その1「肥満ならまず痩せる」

最優先事項は「ダイエット」

いびきをかく人は肥満の人が多い、ということをこれまでくり返し述べてきました。一般的には標準体重を10%超えると肥満、20%を超えると肥満症と呼ばれますが、欧米では「閉塞型」無呼吸症候群の人の、じつに6~7割が、標準体重を20% 以上も上回る肥満症の人という調査があります。

ちなみに肥満の指標は、現在BMIで、計算されます。

BMIについてはこちら。

肥満の人の場合、のどの内側に脂肪が厚く付着して気道を狭めていることが多いので、イまず減車をレというのが治療の鉄則とされています。ですから、なんといつても肥満の原因を明らかにして、理想体重近くまで体重を落とすことが大切です。
減量方法として一般的なのが「低カロリー療法」です。これは、体が必要とする量よりも摂取カロリーを低く抑えるという方法です。
人が1日に必要とするカロリーは年齢などによっても当然違ってきますが、「低カロリー療法」では摂取カロリーを1日8001200kcalに抑えるのが通例です。

極度の肥満には「超低カロリー療法」も必要

また極度の肥満の人の場合、糖質や脂質を可能な限り制限し、摂取カロリーを1日300~800kcalに抑えるという「超低カロリー療法」もあります。
大変過激な方法ですが、高タンパクな食事をとることと、3ヶ月以内の短期間で行うこと、そして体重が理想体重より40% 以上上回つているという条件を満たす人なら、このような療法もあります。
しかしこのような方法は、医師のもとで指導されていることは絶対条件であり、素人が勝手に行うことはできません。この「超低カロリー療法」で口に入れるもののメニューには、ビタミンなどの微量栄養素が適切にバランスされていなければならないからです。「超低カロリー療法」は、短期間でかなり確実に体重を落とせる方法なのですが、注意しなければならないのは、せっかく減量に成功して、睡眠時無呼吸症候群の症状が改善しても、その体重を維持することがかなり難しいことです。

ある調査によれば1年で3分の2の人が再びもとに戻ってしまい、体重を維持できたのはわずか3%だったといいます。したがつて医師などから長期的に指導を受けることが必要です。

手術による減量法も

さまざまな減量を試してはみたものの、すべて失敗に終わった人や、減量することで生命の危機から確実に回避できると診断された場合、手術によって減量化する方法もあります。
しかし、肥満の人が減量した結果、睡眠中の無呼吸や酸素飽和度の低下、不整脈が顕著に改善されたという報告は多数あります。軽度であれば、減量するだけでも睡眠時無呼吸症候群は克服できるのです。
ただ、太っている人で上気道に疾患がある場合は、減量だけではいびきや無呼吸を完全になくすことはできません。減量とともにその治療を行う必要があります。また当然ながら減量には運動も大切です。ただしなにかの病気が原因で太ってしまっている場合は、運動僚法は避けたほうがいいことはいうまでもありません。

早食いが肥満の原因になる理由

なども生活習慣の中で修正していく必要がありそうです。
特に男性ではすごいスピードで食事を食べる人がいますので注意が必要です。

高齢者の診断基準と重症度の判定

加齢により睡眠時無呼暇を起こす割合は高くなる

睡眠時無呼吸症候群の診断基準は「ひと晩の睡眠(7時間) で、10秒以上続く無呼吸(低呼吸も含める考え方もあります) が、30回以上ある場合、または一時間あたりの無呼吸数が5回以上ある場合」です。

けれども、この診断基準を提唱した博士が高齢者を含まない対象での研究をもとに基準を設定したため、こと高齢者においては基準を考え直す必要があるのではないかという指摘も最近ではなされています。
というのも、その後の研究で、加齢とともに睡眠時無呼吸症候群を発症する率が高いことと合わせて、睡眠障害や循環器系の疾患がない人でも、加齢とともに睡眠時無呼吸を起こす率が高くなることがわかつてきたからです。

重症度の評価は、いまも検討が重ねられている

こうした要素を考慮に入れて、1986年にはより厳密に「異常ないびきや昼間の傾眠傾向をともなう睡眠時の閉塞型、または混合型の無呼吸により、潜在的に生命の危険をともなう状態、老人を除いて7時間の睡眠中に30回以上の呼吸停止をともなう状態」と細かく定義されるようになりました。

また、最近では1時間あたりの無呼吸数と低呼吸数が10回~15五回以上を睡眠時無呼吸症候群の診断基準として採用しているところもあります。
このように睡眠時無呼吸症候群の診断基準は、その評価法が検討されている過程にあります。睡眠時無呼吸症候群の重症度の判定についても同様で、いろいろな評価法が検討されています。たとえば睡眠中の1時間あたりの無呼吸数と低呼吸数を評価のものさしにして、軽度10~39回まで、中等度40~79回まで、重度80回以上とする分類。これに血液中の酸素飽和度を組み合わせた評価法で、次のような分類もあります。

  • 軽度
    最低酸素飽和度が85% 以上で、1一時間あたりの無呼吸数と低呼吸数が330回以下のもの。昼間の居眠り傾向はなし。
  • 中等度
    最低酸素飽和度が75%~84% で、1時間あたりの無呼吸数と低呼吸数が30回以上。昼間の居眠り傾向が認められるもの。
  • 重度
    最低酸素飽和度が51%~74% 。
  • 最重度
    最低酸素飽和度が51% 以下、または、1時間あたりの無呼吸数と低呼吸数が60回以上、または不整脈などの心臓の症状があるもの。

話が少し専門的になってしまいましたが、睡眠時無呼吸症候群の軽症、重症の度合いについて、おおよそイメージできたのではないでしょうか。医療の現場では、ここにあげた睡眠中の無呼吸の回数や持続時間、どの程度酸素飽和度が低下しているかといったほかにも、不整脈の有無、昼間の呼吸不全、心不全徴候、血栓性疾患などの有無を参考にして、患者さんの危険の程度を推定しているのです。

治療が必要ないびきの程度(診断に重要な6項目)

専門家でも判断が難しい

健康な人でも睡眠中に無呼吸などの呼吸異常を起こすことがあることがあります。そうした呼吸異常と、治療を要する睡眠時無呼吸症候群の区別を明確につけることは、きには困難なことがあります。

また、無呼吸や低呼吸、低酸素血症がなくても、睡眠にともなう上気道の抵抗が増えただけで( つまり、いびきであつてもそれがひどい場合は) 睡眠時無呼吸症候群のように昼間の居眠りをきたすこともあり、診断をより複雑にしています。

もっと複雑な問題もあります。診断には「治療適示の診断」というものがあります。これは、治療を要するかどうかの診断基準です。

いびきも睡眠時無呼吸症候群も、ともに上気道の狭窄によって起こる「睡眠時呼吸障害」といえます。けれども、いびきと睡眠時無呼吸症候群とでは、治療を要するかどうかを診断する視点が異なってきます。
たとえばいびきの場合、いまのところは健康を損なうほどの障害には至っていないいびきもあります。これは一般的な意味では「病気」とはいえないいびきです。とはいえ本人が、いびきの音で社会生活に支障をきたしていると感じており、治したいと思っているならば、これは治療の対象となります(しかし、本人神経質で、他人への迷惑を過剰に考えすぎて悩んでいる場合は別ですが)。

このように、睡眠時呼吸障害に関する診断は、本人の体にどれだけ危険であるかに加えて、社会生活への影響という視点からも診断を下さなければなりません。そこが通常の病気の診断とは異なるところです。では具体的に、どの程度の症状になると治療が必要となるのでしょう。これはみなさんもぜひ知りたいところではないでしょうか。

睡眠時無呼吸障害の重症度の判断

  1. かすかな、あるいは静かないびきで、呼吸は規則的、いびきのない状態に比べて多少の狭窄はあるが本人には無害。周囲の人もよほど神経質でない限り困らない。
  2. 大きな振動型のいびきをかくが、呼吸は規則的。本人にはおそらく無害。けれども一緒に寝ている家族などを悩ませる。加齢により将来は睡眠時無呼吸症に移行する可能性は少なくない。
  3. 狭窄型いびきで呼吸は不規則で低呼吸、無呼吸がある。周囲の人をいびきで悩ませる。けれどもまだ換気障害が軽いため本人には自覚症状がほとんどない。
  4. 狭窄型いびきで、高度の低呼吸、無呼吸がある。これにより夜間に何度も目が覚めてしまうので睡眠が不十分。昼間傾眠が起こる。しかしまだ全身疾患の原因とはなっていない。
  5. 高度な睡眠時呼吸障害により高血圧などの全身疾患が起こっている。また病的な昼間傾眠があり、他人と話している最中に眠ってしまったりする。
  6. 高度な睡眠時換気障害があり、その影響による種々の全身症状のため、通常の社会生活が送れない。心疾患悪化による突然死の危険さえある。

この中で1は放置しておいてもよく、2は社会生活を考えると治療を必要とし、また、4、5、6は本人のために治療が必要となる。3はその中間にって、治療の目的はケースバイケースとなる。この基準は実に明快な位置づけだと思います。あなたの症状のチェックにぜひ参考になるでしょう。