睡眠時無呼吸症候群の治療その4「手術が必要なケース」

つらいいびきにも外科的な治療で改善できるケースもあります。。はなたけ扁桃が大きく肥大していたり、鼻腔内に鼻茸があるなど、上気道に疾患があったり、あるいは上気道の形態に異常があって睡眠時無呼吸を起こすのであれば、外科的な修復術や切除術が必要となります。

たとえば鼻中隔湾曲症で、鼻閉によって無呼吸が起こるのであれば、鼻中隔矯正術、同じ鼻閉でも原因が鼻茸や下鼻甲介(鼻の粘膜の一種) にあるのなら、それらの切除術が必要です。

小児に多いアデノイドや口蓋扁桃肥大も、やはり切除術が必要ですし、巨舌症や小顎症症の人には、舌根正中切除術、下顎骨部分切除術や下顎骨前方移動術があります。

つまり睡眠時無呼吸症候群を手術で治すといつても、無呼吸を引き起こす原因や部位によって、手術の内容も当然違ってくるわけです。

ところで、大人で睡眠時呼吸障害を起こしている場合で、もっとも多い原因部位は中咽頭です。ここには口蓋垂や軟口蓋、前・後口蓋弓といった、いびきや無呼吸に関係する軟らかい粘膜組織からできています。それらの形態に解剖学的な異常が見られる場合、その軟部組織を切り取って、咽頭腔を拡げる手術を行います。たとえば口蓋垂が異常に長ければその先端を切除し、口蓋扁桃が大きければ摘出することもあります。

また口を開けて見える、のどの両わきにある前・後口蓋弓という膜の部分を切除するケースは、なかでもいちばん多いといえます。
切除する部位は1つとは限らず、口蓋垂と前・後口蓋弓をいっしょに手術することも珍しくありません。

こうした中咽頭での原因部位をとりのぞき、咽頭腔を拡張する手術を総称して「咽頭成形術(UPPP)」と呼んでいます。

この「咽頭成形術」は、睡眠時呼吸障害だけでなく、ひどいいびきを治療する目的でも行われます。ただ、同じ咽頭成形術であっても、いびきの治療では粘膜だけを切除する比較的軽い手術で済み、局所麻酔で行われることもあります。
ですから外来手術で済む場合があるのに対し、睡眠時無呼吸症候群の場合、粘膜組織を広範囲に切除することが多く全身麻酔によって行われます。したがって入院治療となります。それぞれの場合の手術について、詳しく見てみましよう。

いびき治療のための咽頭成形術

手術の規模としては扁桃を摘出する手術と同じ程度で、局所あるいは全身麻酔によって行われます。外来手術で行うことも可能ですが、大事をとって、最近では入院治療をするところも増えています。
また、いびきだけが問題となっている人でも、舌根が高くてのどの奥を診ることさえできない人もいます。こうした場合では全身麻酔が必要で、入院を要します。
いびきをかく人の咽頭を診ると、口蓋扁桃はのどの奥に向けて突出し、後口蓋弓の幅が広く、また口蓋垂が長いといったパターンがよくみられます。それらの結果、上気通が狭くなってしまつているわけです。

後口蓋弓は膜のようになっている部分ですが、いびきをかく人はその広さが5mm以上ある場合が多いのです。後口蓋弓、前口蓋弓ともに左右に分かれており、左右の口蓋弓の距離が狭いケースも、のどを塞ぐことになるのでいびきをかく原因になります。
また口蓋垂の長さが1cm以上あると、やはりいびきの原因になります。ちなみに口蓋垂の長さは、その人の体格などには関係ありません。一般的な手術の手順はこうです。まず麻酔をかけます。局部麻酔であれば、咽頭の局所に麻酔を塗布するか、前後口蓋弓に局所麻酔薬注射をします。それから扁桃摘出術を行います。

次に口蓋垂の外縁に沿って後口蓋弓を上方向に切断していき、前口蓋弓の上の緑に達したところで、遊離している後口蓋弓の端を持って外側上方に引き上げ、前口蓋弓と接触さほうごうせてみて、縫合するのに余計な部分を切除します。

その後、前後口蓋弓の遊離緑を縫合します。最後に長く残った口蓋垂をくさび形に切って左右を縫合します。口蓋垂の切り方では、単に横に切って前後に縫合する方法もあります。

なお、いびきの手術で口蓋垂を残すか全部を切除するかについては、ケースバイケースといえます。切除するとしても、口腔内の美容という観点から少し残しておくケースもあります。

ちなみに口蓋垂をすべて切り取っても、ほとんどの場合、後遺症はありません。手術の時間はおおよそ1時間前後です。出血や術後の痛みは、扁桃摘出手術とほぼ同じです。

このいびき治療のための咽頭成形術は、いびき研究の世界的な先生が、すでに60年以前から行っていた「咽頭腔拡張手術」がもとになっています。

睡眠時無呼吸症候群を治療するUPPP手術

閉塞型無呼吸症候群の閉塞部位としては、上・中咽頭境界部、舌根部、喉頭部の3つに大きく分けることができます。UPPP手術の対象となるのは上・中咽頭境界部に閉塞部位がある場合で、下咽頭が狭窄している場合ではほとんど効果がありません。

したがって、気道閉塞部位を確認するため、手術にあたっては、食道内圧の測定検査や画像診断などを受ける必要があります。手術は一般的には全身麻酔で行われます。

いびき治療のための咽頭成形術と同様、まず口蓋扁桃を摘出してから後口蓋弓の処置によ入ります。切開線を入れ、軟口蓋の表面の粘膜を卸がしてこれを切除します。
その後、残された軟口蓋の外側の遊離緑を引き上げて反転し縫合します。
最初に軟口蓋粘膜の表面を剥がしたのは、そうしておかないと縫合してもくっつかないからです。軟口蓋の外側遊離緑を引き上げるときは、たるみをなくすため、できるだけ外側上方へ引き上げるようにします。
こうして縫合すると、咽頭腔は広く拡大したことになります。

いまではこのUPPP手術が、閉塞型無呼吸症候群の代表的な外科的治療方法となっています。しかし、この手術が開発される以前は、閉塞型無呼吸症候群の外科的治療方法といえば、気管切開術でした。気管切開術は、もっとも確実に効果が上がる方法ではあるのですが、術後の感染を起こしやすいこと、会話の障害や外見上の異様さなど、患者さんの精神的苦痛がたいへん大きいので、極度に重症の場合や、緊急避難的処置をのぞいてはほとんど行われていません。

最近では有効な内科的治療であるCPAP(持続陽圧呼吸装置) が開発されたことも、気管切開術が行われなくなった理由の1つといえます。睡眠時無呼吸症候群の治療として気管切開術が適用されるのは、次のような場合です。

  • 社会的、経済的障害をともなう、高度な日中の傾眠がある
  • 重度の不整脈がある
  • 1時間あたりの無呼吸回数が60以上である。
  • 睡眠中の酸素飽和度が40%以下である。
  • 内科的治療によっては効果が得られない

手術ができないケース

仮に中咽頭に形態異常がり手術が必要な場合でも、手術ができない場合もまれにあります。小顎症の人や、下顎骨の形態異常、浮腫や血管腫が原因による巨舌症の人などがそうで、これらの人はまた別の手術や内科的治療が必要になります。他にも先天性鼻咽閉鎖症などの先天的疾患がある人は、手術が受けられません。

睡眠時無呼吸症候群の治療その3「薬物療法」

女性に睡眠時無呼吸症候群の人が少ないのは、女性ホルモンが関与しでいるからではないかとみられています。女性の黄体期や妊娠期にはプロゲステロンというホルモンが増加し、肺の換気量が増大します。また、慢性の閉塞性肺疾患の人にプロゲステロン製剤を投与すると、呼吸が刺激されることもわかっています。

そこで睡眠時無呼吸症候群の人にプロゲステロン製剤を投与したところ、呼吸の改善に効果があつたという報告があります。このように睡眠時無呼吸症候群の比較的軽い症例については、薬物療法もある程度は有効とされていますが、率直にいって重度の人にも効く治療薬というものはまだなく、現在も研究が重ねられているところです。

かなりのスピードで睡眠時無呼吸症候群の解明が行われてきているものの、比較的新しい病気ゆえ、まだまだ解明しなけばならない問題もたくさんあるというのが実情です。薬物療法で用いられる薬は大きく分けると、呼吸刺激剤、向精神薬、そして上気道を継続して広げるはたらきをする薬などがあります。少し専門的になりますが、それぞれの種類の薬について、詳しく述べてみましよう。

呼吸刺激剤

さきほどのプロゲステロン製剤は呼吸刺激剤の1つで、呼吸中枢を刺激するはたらきがあります。したがって「中枢型」無呼吸や肺胞低換気などに効果があります。

ほかにアセタゾラマイドという刺激剤も「中枢型」無呼吸に対して効果があり、夜間の無呼吸の回数や中途覚醒が減って自覚症状も改善したという欧米での報告があります。
日本でもアセタゾラマイドの効果を検討するため臨床試験が行われた結果、有効率は7割弱。これはかなり有望な数字で、「中枢型」ばかりでなく、軽度の「閉塞型」無呼吸の人の薬物治療法として期待が持たれています。副作用は、手足のしびれ、頻尿、胃部の不快感などです。

ただし、アセタゾラマイドは肺に重い機能障害がある人や原発性肺胞低換気症候群の人には適応しません。一方、「閉塞型」無呼吸に対して試みられている呼吸刺激剤としては、ドパーミンを阻害するプロクロルベラジンなどがあります。プロクロルぺラジンは一部の閉塞型無呼吸の人には効き目が認められたものの、「中枢型」にはまつたく無効で、残念ながら睡眠時無呼吸症候群の治療薬としては見込みが薄いようです。

向精神薬(抑うつ剤)

群の人は、夜中に何度も目ざめることが多く、眠りが分断されるため、レム睡眠の回数をかえって増加させるという悪循環のなかにいます。

三環系抑うつ剤と呼ばれる種類の薬は、眠りのなかでこのレム睡眠が出現するのを抑えることで、等吸数を減らすものです。このほか、頤舌筋の活動を高め、舌根沈下を抑えるはたらきがあることも報告されています。三環系抑うつ剤は、重度の睡眠時無呼吸症候群の人には適応できませんが、軽症~中等度であれば有用とされています。ただ、副作用として、口が渇きやすくなったり、排尿困難、不整脈を起こす可能性も指摘されています。
睡眠中に無呼吸が起こる率がいちばん高いのがレム睡眠のときです。睡眠時無呼吸症候群の人は、夜中に何度も目ざめることが多く、眠りが分断されるため、レム睡眠の回数をかえって増加させるという悪循環のなかにいます。

上気道を広げるはたらきがある薬

鼻が詰まっていると、いびきをかきやすく、無呼吸をきたしやすくなります。また夜中に頻繁に目がさめることになります。鼻が詰まったときに最に噴霧する薬は一般にも市販されています。血行をよくすることで鼻詰まりを和らげるものですが、睡眠時無呼吸症候群の要人も、こうした薬を使用してみる価値はあるでしょう。

睡眠時無呼吸症候群の薬物療法として、ほかにもさまざまな薬についての研究・検討が行われています。将来、もつと有効な薬が現れるかもしれませんが、いまのところ薬物療法は軽度の人についてのみ、あるいは補助的な治療法として用いられているのが現状です。

睡眠時無呼吸症候群の治療その2「内科的治療が必要ならそちらを優先」

体のどこかに疾患があり、それがもとで睡眠時無呼吸症候群を起こしている人は、その治療を行うと無呼吸は顕著に改善されます。
しかし、そうした基礎疾患をともなわない睡眠時無呼吸症候群の人が、数の上では多数を占めます。その場合、睡眠時無呼吸自体に対しての治療を行わなければなりません。

治療の方法としては、持続陽圧呼吸装置(CPAP)の導入や夜間の酸素吸入などの内科的治療と、気管切開術や咽頭拡大術などの外科的治療に大きく分けることができます。それぞれどのような方法があるか、まずは内科的治療からみてみましょう。

効果をあげるCPAP療法

睡眠時無呼吸症候群における内科的治療で、もつとも効果がある方法として知られているのが持続陽圧呼吸装置(CPAP)を使った治療です。CPAPというのは、鼻にゴムマスクのようなものを装着し、コンプレッサーによって空気を持続的に鼻から上気道へ送り込むことで上気道の閉塞を防ぐという方法です。中~重度の睡眠時無呼吸症候群の治療方法として中心的なものになっています。
CPAPは一般に販売されているものではなく治療用具であるため、使用にあたっては医療機関で医師の診断を受ける必要があります。

下あごを前方に固定して気道を広げるスリープスプリント

スリープスプリントも高い有効性を示す治療器具の1つです。これは夜眠るときにマウスピースのようなものを口のなかに装着することで、下あごを前に引き出し、舌根の沈下を防止し、気道を確保するというものです。
口を開けて眠る習慣のある人はいびきをかきやすく、無呼吸も起こしやすくなります。
これは舌根沈下などの原因のほかに、口の中が乾燥して摩擦抵抗が増えて上気通が塞がりやすくなることも関係しているのですが、スリープスプリントを装着すると上下のあごが固定されるため、しぜんに口を閉じて鼻呼吸する習慣がつきます。また口に装着していると唾液の分泌をうながすので、口の中の乾燥を防ぐという効果もあります。

覚醒回数を減らす酸素療法

睡眠時無呼吸症候群が恐ろしいのは、低酸素血症つまり血液中の酸素不足が引き金となって体にさまざまな悪影響を及ぼすことです。
そこで酸素不足を補うために睡眠時に酸素吸入を行うというのが酸素療法の発想です。酸素療法は、CPAPと同じように鼻にマスクなどを装着し、最初は1分間に1Lから4Lくらいの酸素を鼻腔に送り込みます。治療開始直後は、一時的に無呼吸状態でいる時間が延びることもありますが、日数がたつと無呼吸の時間も締まっていきます。

手軽に試せる鼻孔拡張テープ

最近、スポーツ選手などが、絆創膏を小さくしたようなテープを鼻に貼っているのを見ことはありませんか。これは鼻孔を広げて酸素の吸入量を増やす目的で使われているものです。
テープには2本のプラスチック製のバーが内蔵されています。そしてテープを鼻腔の上あたりに貼ると、鼻に沿って曲がつたバーが戻ろうとする力によって鼻腔が持ち上げられ拡張するしくみになっています。

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鼻孔拡張テープは、誰でも安全かつ気軽に使用できます。薬品類が使われていないので、妊婦や高齢の方でも大丈夫です。鼻の通りが悪くていびきをかく人などは、ぜひ試してみるといいでしょう。もともと鼻炎もちの人には効果があるでしょう。