睡眠時無呼吸の診断 その1「問診」

まずはふだんの生活ぷりや眠っている間の状態から

睡眠時無呼吸症候群がしばしばとりあげられ、一般の人々の間でもその恐ろしさが知られるようになって以来、いびきや睡眠中の無呼吸を心配して耳鼻咽喉科外来を訪れる人が増えています。
ひとくちにいびきをかくといっても、それが治療を必要とするいびきなのかどうか、さらには病的な、放置しておくと危険ないびきなのかどうか、専門医には的確な診断をしてもらう必要があります。

病院を受診した場合は、まずふだんの生活ぶりや眠っている間の状態、さらに病歴などについて話を聞くことからはじまります。習慣的にいびきをかくか、どんなふうないびきか、呼吸が止まることはあるか、昼間に居眠りは起こすかなど、睡眠時無呼吸症候群の典型的な症状があるかどうかが問診の中心になります。

睡眠時無呼吸症候群の典型的な臨床症状を以下にまとめてあるので、該当するものがあるかどうかチェックしてみてください。

  • 習慣的にいびきをかく。
  • 睡眠中の呼吸停止がある。
  • 昼間から眠くて仕方がない、居眠りでトラブル(車の事故など)を起こしたことがある。
  • 不眠がある。
  • 起床時に頭痛がしたり、口の中が乾いている。
  • 睡眠中に異常に体を動かしてもがいたり、痙攣の発作がある。
  • 日中、体が重く息切れや立ちくらみがしたり、まっすぐに歩けないことがある。
  • 記憶力低下や集中力低下がみられる。
  • 以下のような性格変化がある
  • 疲れやすく、あまり活動的でなくなった、ものごとに無頓着になった、怒りっぽくなった、ボーッとしていることが多い、落ち着きがなく、じつとしていることができない(子供)、落ち着きがなく、じっとしていることができない、夜尿、尿失禁がある…など

また、身体的な外観的なチェックも行います。太っている人、下あごの小さい人や下あごが後退してあごのない人、短くて太い首の人などは上気道が狭くなりやすいので、それをチェックします。

持病のある人は特に注意

病歴(基礎疾患) について知ることも、睡眠時無呼吸症候群の診断をするうえで大変重要です。たとえば次のような疾患があると、睡眠時無呼吸を起こしている可能性が高まります。

上気道の疾患

  • 鼻中隔湾曲症
  • 鼻ポリープ
  • 鼻アレルギー
  • アデノイド
  • 口蓋扁桃肥大

とくに小児の大部分は、アデノイドや口蓋扁桃肥大が睡眠時無呼吸の原因になっていることが多いものです。

肺の疾患

睡眠中には上気通が狭くなりやすく、また呼吸機能も低下することは前にお話しましたが、肺に疾患があると、睡眠中に呼吸・循環器の異常がよりひどくなり、血液中の酸素不足(低酸素血症)を起こしやすくなります。

循環器に疾患がある場合

睡眠時無呼吸症候群の人には高血圧や不整脈の人が多く、逆に高血圧や不整脈の人にも睡眠時無呼吸症候群の人が多いことがわかっています。したがって高血圧、不整脈、心不全などの疾患がある人は、睡眠時無呼吸症候群がその疾患の原因に関係している可能性を念頭におく必要があるのです

内分泌に異常がある場合

舌肥大や上気道の粘膜組織が肥大する末端肥大症の人は、上気道閉塞を起こしやすくなります。また甲状腺機能が低下(甲状腺ホルモンの不足によっておこる病気) している人も舌肥大などを起こしやすくなります。

神経筋疾患がある場合

ポリオ(ポリオウィルスの感染によって起こる病気。脊髄神経をおかすために、足や腕がまひしたり、重症の場合は、胸の筋肉や横隔膜までまひが起こり、呼吸中枢である延髄がおかされると死に至ることもある) やシャイドレージャー症候群(小脳や脳幹などに変性をきたし、起立時に失神したり、排尿障害や発汗低下などの症状を持つ自律神経障害)、筋ジストロフィー、脳梗塞などの神経筋疾患が原因となり中枢型無呼吸をもたらすケースがあります。
ほかにもアルコールをよく飲むかどうか、睡眠薬や精神安定剤を常用しているかどうかも質問の対象になります。これらは呼吸中枢機能を抑制し、睡眠中の無呼吸発作を誘発することがあるからです。ここにあげたケースのうち、上気道に疾患があっていびきや睡眠時無呼吸症候群をもたたいしやらしている場合は耳鼻咽喉科で対応できますが、高血圧、肥満、代謝異常、精神障害など、他の疾患が原因に関与している場合、その治療が先決になります。ですから、そうした疾患の疑いがある人は、まず内科で健康診断を受け、異常がなければ耳鼻咽頭科で診断を受けることを最優先にします。

睡眠時無呼吸症候群の注意すべき危険性

日本での有病率は1%以上

睡眠時無呼吸症候群は当初、きわめてまれな病気であり、異常な肥満と、立ったまま居眠りするような過剰な眠気がその典型であると考えられていました。

しかし太った人でなくても、大きないびきと不眠を訴える人のなかに睡眠時無呼吸をこしているケースが報告されるようになってきました。

さらに80年代に入ると、欧米で睡眠時無呼吸症候群の有病率が次々と報告されはじめました。なんと中年男性の1%~2% が睡眠時無呼吸症候群にかかつているというのです。こうした報告は、睡眠時無呼吸症候群がまれな病気ではないことを専門家たちに印象づけ、驚きをもつて受け止められました。

その後、睡眠時無呼吸症候群の確定診断技術がより進歩し、スクリーニング法( アンケートや在宅簡易モニターによって睡眠時無呼吸症候群かどうかを診断する) も整備されたことによって、有病率のデータも更新され、現在、欧米での睡眠時無呼吸症候群の有病率は男性で4% 、女性で2% ぐらいといわれています。気になる日本の場合ですが、0歳児から高齢者まで合わせて睡眠時無呼吸症候群の患者がどれくらいいるかについては、まだ詳細なデータは出そろっていません。

しかし、いくつかの報告を総合すると、日本での睡眠時無呼吸症候群の有病率は少なくとも1% 以上にはなると考えられています。1% というと、人口10万人に対して1000人であり、これはぜんそくの患者数にほぼ匹敵するほどの数字です。参考までに、日本人で習慣性いびきをかく人は、男性で21% 、女性で6% という数字があります。いびきもそうですが、睡眠時無呼吸症候群にかかる人で女性が少ないのは、女性ホルモが睡眠時無呼吸症候群を抑制しているから、という指摘があります。

実際、睡眠時無呼吸症候群を発症する年齢は、男性では働き盛りの50歳代がピークですが、閉経後の女性にも多いのです。また女性ホルモンのひとつであるプロゲステロン製剤の投与が、短期的には睡眠時無呼吸症候群に有効であることも確認されています。

小児の場合ですと、鼻やのどの疾患が睡眠融叫呼吸症候群の原因であることが多いので、男女に有病率の差はありません。

さまざまな合併症を引き起こす

睡眠時無呼吸症候群の恐ろしさの1つは、さまざまな合併症を引き起こすことです。睡眠時無呼吸症候群の人は、たとえば高血圧や不整脈など循環器系の障害を引き起こしやすくなります。また、狭心症や心筋梗塞、脳梗塞など、心臓・脳血管疾患と合併する確率も高くなります。
ちなみにアメリカの調査では、睡眠時無呼吸症候群の人が狭心症や心筋梗塞などの虚血性心疾患にかかる率は、そうでない人に比べて3倍、脳卒中は4倍という結果が出ています。これらの病気を併発してしまう原因として、眠っているあいだの無呼吸の状態が体に酸素不足をもたらし、血管を収縮させること、同じく血液中の酸素不足が赤血球を増加させ、血液の粘性を高めてしまうことなどがあげられます。

高血圧

とくに睡眠時無呼吸症候群と合併しやすいのが高血圧です。本態性高血圧症(疾患があって高血圧を起こすのではなく、原因が不明の高血圧でほとんどの場合がこれにあてはまります)の人が睡眠時無呼吸症候群にかかる割合は、22%~48% 、逆に睡眠時無呼吸症候群の人が高血圧症にかかる割合は、なんと45~90%% に達するというデータがあります。

ただ、睡眠時無呼吸症候群に高血圧を合併した場合、無呼吸を治療することによって、高血圧はすみやかに治ります。そこが降圧剤を使ってもなかなか完治しない本態性高血圧と大きく違うところです。睡眠時無呼吸症候群に高血圧が合併しやすいのは、(患者に中高年や肥満体の人が多いこともありますが)睡眠時無呼吸症候群特有の病態である夜間の低酸素血症や、交感神経活動の亢進(睡眠時無呼吸症候群の人は昼間目ざめているときだけでなく、夜間も無呼吸を起こすことによって、交感神経が興奮し続けているのです) が、大きく影響していると考えられています。血液中の酸素が不足すると必然的に二酸化炭素が増えます。すると肺の血管が縮んで肺高血圧を引き起こします。さらに交感神経も興奮して心臓の拍出量を増大させ、体全体の血圧も上がるというわけです。

「閉塞型」無呼吸症候群の人の場合、夜間の血圧の無呼吸の周期とぴったり一致して変化するのが特徴です。無呼吸をのあとに呼吸を再開するときに、閉塞型の人は激しくあえだり大きな声でいびきをかくことは前に述べましたが、その際、脳の覚醒反応によって交感神経が一時的に興奮し、収縮期血圧で100mmHG以上も上昇します。これが一晩中、何百回とくり返されるわけですから、高血圧を招くのも無理はありません。高血圧症が慢性重症化した場合、心筋梗塞や脳梗塞へ発展する危険もありますので要注意です。

不整脈

交感神経の興奮は不整脈を引き起こすこともあります。睡眠時無呼吸症候群の人が引き起こす不整脈は、無呼吸中に脈拍が少なくなり、呼吸が回復したときに脈拍が増えるというパターンを示すのが特徴です。そしてこの不整脈が、夜間の突然死や、最近頻発している乳児突然死症候群(SIDS) の原因と関係しているのではないかと、かねてから注目されてきました。

いびきや無呼吸で悩んでいる人が、いちばん心配しているのも「自分は眠っている間に呼吸が止まって死ぬのではないか」ということではないでしょうか。睡眠時無呼吸症候群の患者227人の症例を調べたところ、5年間で3例が突然死を起こしているという調査報告があります。

ただし、この数字は特別多いことを意味するものではありません。しかも睡眠中の死亡は1例もなく、出勤途中、ジョギング中、手術後に死亡しているということでした。そもそも突然死と、睡眠時無呼吸症候群に併発する不整脈との関連が注目されたのは、睡眠時無呼吸症候群の患者の睡眠中の心電図をモニターしたところ、異常な心電図が多くみられ、しかも昼間はそうした異常が認められなかつたことが発端となっています。

しかしその後の報告では、睡眠時無呼吸症候群の人の不整脈の頻度は、正常な人の不整脈の頻度とそれほど違わないことがわかってきており、現在では不整脈による突然死は、睡眠時無呼吸症候群ではそれほど問題にはならないという見方が強まっています。

しかし、だからといって油断はできません。睡眠時無呼吸症候群の人は、症状が重くなると重度の不整脈(心室性不整脈など) を招く頻度が高く、とくに重い心疾患を持つ「中枢型」無呼吸症候群の人は、突然死をもたらしかねない心室性頻拍症にまで発展する可能性もあるからです。

糖尿病

血液中のブドウ糖をコントロールしているインスリンというホルモンがあります。糖尿病というのは、このインスリンの合成や分泌障害によって血糖値などの代謝奨常を引き起こす病気です。睡眠時無呼吸症候群の人が糖尿病にかかりやすくなるのは、無呼吸による酸素不足や血液の酸性化が、このインスリンの分泌を抑えるためと考えられています。

虚血性心疾患

虚血性心疾患とは、動脈硬化などによって血流が極度に減少し、それが原因となって引き起こされる心疾患のことです。閉塞型無呼吸症候群の人には、肥満や高血圧症を抱えていることが多く、冠動脈硬化症(心臓の筋肉に血液を送る冠動脈がかたく細くなって血液の流れが悪くなる病気) を起こす率も高くなります。事実、虚血性心疾患の人の20% に睡眠時無呼吸症候群が認められるという報告があるほどです。

また、中枢型無呼吸症候群の人は、狭心症の一種で、夜間の就寝中に起こる異型狭心症と合併するケースもしばしばみられます。異型狭心症は、睡眠時無呼吸と同じように、中年以上の男性に多く、睡眠周期ではレム睡眠期に起こりやすいという特徴がありますが、狭心症の発作と無呼吸との時間的な一致は認められず、睡眠時無呼吸症候群が直接の原因になつているかどうか、その関連についてはまだわかっていません。

心不全

心臓の機能が低下した結果、心臓から全身に送られる血液の量が不足するとともに、肺うっ血(肺に血液がたまる状態) などを起こした状態が心不全です。これは心筋症や虚血性心疾患など、心臓の機能の低下と調節系の反応が加わつた全身的な変化であり、いつてみればそれを総称して心不全と呼んでいるわけです。

睡眠時無呼吸症候群が、さまざまな病気をもたらす大きな理由の1つに、上気道の閉塞による体の酸素不足があげられますが、もう1つ、重要な側面があります。
それは、上気道が閉塞しているにもかかわらず、無理に呼吸しようとするため、胸腔な内に陰圧(内部の圧力が外部の圧力より低い状態) が生じてしまうことです。
たとえば睡眠時無呼吸症候群の子どもには、胸部が漏斗状に凹んでいる状態がよく見られます。これは、睡眠時に無呼吸をくり返し、胸腔内が陰圧になっている状態が長く続いたために起きてしまったた現象なのです。

精神への影響

睡眠時無呼吸症候群の人は、夜中に何度も目ざめたり、朝は頭痛がしたり、だるさを感じることが多いのですが、こうした症状は実はうつ病の特徴でもあるのです。睡眠時無呼吸症候群の人に心理テストを行ったところ、28% の人に抑うつ傾向がみられたという報告があります。質のいい睡眠がとれないことによってうつ病になりやすいということです。

睡眠時無呼症候群の患者は生存率が低い

こうしてみてきたように、睡眠時無呼吸症候群は多くの合併症を呼び起こす病気です。それだけに、睡眠時無呼吸症候群の人は、確実に命を縮めいるといえなくもありません。
実際、「睡眠時呼吸障害の患者は、障害のない人に比べて生命予後が短い」という、とてもショッキングな事実がアメリカで報告されています。とくに重症の睡眠時無呼吸症候群の場合は予後が悪く、1時間あたりの無呼吸回数が20回を超える重度の人の場合、調査を行った8年間で生存率が63% しかなかったというのです。
睡眠時無呼吸症候群の死亡率には心血管系疾患の合併が大きく影響しています。したがって、睡眠時無呼吸症候群の積極的な治療はもちろんのこと、合併症についても早期発見と適切な治療が重要なポイントになります。

睡眠時無呼暇症候群はこうして発見された(歴史)

「ピックウィック症候群」の研究からはじまった

ここまでの説明で、睡眠時無呼吸症候群という病気のアウトラインは、だいたいわかっていただけたのではないでしょうか。さて、「睡眠時無呼吸症候群」という病名は、いまではテレビや雑誌などでたびたび紹介されて、一般の人々にも少しずつ知られるようになつてきました。

名前くらいは聞いていたという人は多いと思います。じつは、専門家のあいだでこの病気が注目されるようになつたのも、つい最近のこといえるのです。

睡眠時無呼吸症候群という病名が医学書に初めて登場したのは、いまからわずか20数年前の1976年のことです。提唱したのはアメリカの博士で、睡眠中の無呼吸発作により不眠を訴える症例を包括する名称として提唱されました。しかし、それ以前に睡眠時無呼吸症候群の患者がいなかったわけではありません。
睡眠時無呼吸症候群は次のような過程をたどって『発見』され、また認知されるようになったのです。

いまでは睡眠時無呼吸症候群の中に包括されている「ピックウィック症候群」という病気があります。この病名が登場したの1956年。病的に肥満していて、日中に頻繁に居眠りをくり返し、また周期性呼吸(睡眠中の呼吸や換気量などが周期的に変動する現象) やチアノーゼ、右心肥大などの8つの症状を示す病態を、「ピックウイック症候群」と名づけたのです。

「ピックウイツク症候群」にみられる周期性呼吸は、無呼吸がくり返されることによって起こる現象なのですが、当時はそこまではわかってはいませんでした。睡眠中の脳波や呼吸、換気状態などを測定する技術がいまほど進んでいなかったからです。

昼間にくり返しはいほう起こる居眠りの原因は、肥満によって肺胞(肺に入った気管支の末端部で、ぶどうの房のように分れた部分)の二酸化炭素が増えたことによる意識障害だと考えられていたのです。よって「ピックウィック症候群」は心肺系の病気として扱われ、当初は内科医によって研究が行われていました。

無呼吸状態を経て呼吸が回復するときに、患者の脳波に覚醒反応が起こり、そのため睡眠が分断されて眠りが浅くなることを明らかにしました。また、患者の呼気ガスを分析することによって、炭酸ガスの値が正常であるにもかかわらず、日中の傾眠症状が起こることを示しました。

昼間傾眠(昼間の居眠り) の原因は、CO2ナルコーシス( 二酸化炭素ガスの直接の作用ではなく、脳組織内のpHの低下により、意識障害を起こしたもの) ではなく、夜間の不十分な眠りを埋め合わせるために生じる現象であることを実証したのです。

原因は上気道の閉塞

これらの経緯がきっかけとなって睡眠障害について研究していた世界各国の精神科医や神経科医たちが、ピックウィック症候群の病態に近い患者にもポリグラフ検査を行いました。ポリグラフ検査とは、脳波や呼吸(換気) の状態、筋電図などを長時間にわたつて並行して記録し、無呼吸の有無などを調べるものです。その筋たとえ太つていなくても- つまりピックウウィック症候群には該当しないけ

れども、小下顎症の人や、扁桃・アデノイドが肥大している人などに純…呼吸や昼間の㍍眠りなどピックウィック症候群とよく似た病態がみられることがわかりました。これらの患者たちの胸郭や横隔膜は、無呼吸の状態でいる間も呼吸努力が行われていることから、「無呼吸は主に上気道の閉塞によって起こる」という説が提示されました。

それを裏づけるように、ピックウィック症候群の患者に気管内挿管術( 鼻あるいは口くだから、気管に管を入れて直接外界と気管・気管支・肺に空気を送る) や気管切開術(百の前面に気管に達する穴を開け、鼻・口・喉頭を通さずに直接気管切開口から呼吸する) を施したところ、睡眠時の無呼吸、昼間の過度の居眠りなど、特徴的なほとんどすべての症状がなくなったのです。

こうしたことから、ピックウィック症候群とそれに類似した症候群(それらを包括して睡眠時無呼吸症候群と呼ばれるようになったわけです。これにより原因は、上気道の閉塞によって起こる無呼吸によることが判明したのです。

これまで見てきたように、睡眠時無呼吸症候群は、最初は呼吸・循環器系の疾患を扱う内科の分野で研究がはじまり、やがて睡眠障害を専門に研究していた精神科医や神経科医が研究を推し進め、現在では小児科や耳鼻咽喉科、脳外科、口腔外科、歯科、放射線科など、多くの分野でその病態生理の解明や治療法の開発を行っています。

というのも、睡眠時無呼吸症候群の病因や病態が、それだけ多方面の医療分野にまたがつているからで、これもまた睡眠時無呼吸症候群の特徴といえるのです。

睡眠時無呼吸症候群の診断

原因となる3つのタイプ

健康な人が睡眠中に無呼吸を起こすといっても、1時間あたりの呼吸停止回数は5回以内、持続時間も短く10秒以内のものです。では、どの程度ひどくなると睡眠時無呼吸症候群といえるのでしょうか。
「7時間の睡眠中に、10秒以上続く換気の停止(無呼吸) が30回以上くり返される病態、あるいは1時間に5回以上の無呼吸がある病態」これが睡眠時無呼吸症候群の診断準です。

実に明快な定義ですが、問題なのはここからです。睡眠時無呼吸症候群を治すためには、その人がどのような原因で無呼吸を起こしているかをつきとめなければなりません。
けれども無呼吸をもたらす原因というのは、1つだけではありません。さまざまな要因が複雑にからみあっているのです。原因別に睡眠時無呼吸症候群を分類すると、大きく次の3つのタイプに分けることができます。

閉塞型無呼吸

上気道が閉塞するために、胸郭や横隔膜は呼吸運動をしているにもかかわらず口や鼻での呼吸が停止するもの。睡眠時無呼吸のなかでももっとも多いタイプで、肥満による睡眠時無呼吸症候群もこれにあてはまります。

中枢型無呼吸

呼吸中枢になんらかの障害があって、胸郭や横隔膜の呼吸運動が停止してしまうもの。呼吸中枢から呼吸筋に対して活動を促す刺激が停止しているために無呼吸が起こると考えられています。
健康な人が睡眠中に軽度の無呼吸を起こすのも、元をたどればこれと同じかかわりです。睡眠時無呼吸綻候群全体のなかで中枢型の占める割合は10% 前後といわれています。

混合型無呼吸

中枢型にはじまって閉塞型に移行するタイプです。これら3つの型は完全に独立しているわけではなく、同じ睡眠時無呼吸症候群の患者で、一晩の睡眠中に混合して出現することもあります。

「閉塞型」無呼暇はこうして起こる

睡眠時無呼吸症候群のなかでもっとも頻度の多い「閉塞型」無呼吸ですが、このタイプの人は、ほとんど必ずといつていいほど大いびきをかきます。その呼吸パターンは、睡眠→上気道の閉塞→無呼吸→血中の酸素分圧の低下と二酸化炭素分圧の上昇→覚醒→上気道の開放と過剰換気→睡眠という周期を繰り返します。

上気通が狭まっていると必要な量の換気が妨げられて、血液中の酸素は低下し、二酸化炭素が増えます。すると血管の壁にあるセンサーがはたらいて延髄にある呼吸中枢に刺激を送ります。これにともない脳が覚醒します。呼吸中枢は呼吸筋(胸郭や横隔膜、上気道の筋も含まれます) に対して呼吸運動を活発化するよう促します。
呼吸筋は呼吸運動を強めていき、気道狭窄部の抵抗に打ち勝ったとき、はじめて上気道は開放されて大きく呼吸をします。

いびきが止んだあと、ものすごい苗で再びいびきが始まるのはこのためなのです。さて、ここで重要なのは、無呼吸が起こるたびに脳が覚醒し、呼吸を再開させているということです。覚醒はふつうは数秒間で、ふたたび眠りに入りますが、重度の閉塞型の人の場合、一晩に500回も無呼吸を起こすことがあります。つまりその人は一晩に500回も睡眠が分断され、深い眠りへの移行が妨げられているのです。
実に恐ろしい事実ではありませんか。これでは昼間、病的に眠り込むのも無理はありません。閉塞型無呼吸の病因としては、口蓋扁桃肥大、巨舌症、鼻中隔湾曲症、アデノイドなどがあげられます。けれども、これらが原因で上気道の閉塞を生じている患者で、「中枢型」無呼吸も関係していることがあります。たとえば気管切開の手術を行うと、閉塞型無呼吸は劇的に改善しますが、中枢型無呼吸は残ってしまうことがあるのです。したがって、まわりの人から無呼吸を起こしていると指摘されている人は、できるだけ早期に診断を受け、治療を開始することが大切です。

「中枢型」と「混合型」無呼吸の特徴

日常の活動だけでなく睡眠中も無意識に、あたりまえのように呼吸活動を行っています。「中枢型無呼吸のこわさはその仕事をつかさどっている呼吸中枢が活動を停止してしまうこと、あるいは呼吸中枢からの指令がなんらかの障害により、呼吸筋(胸郭や横隔膜) に届かず、呼吸筋が運動をやめてしまうことにあります。

中枢型の無呼吸は、器質性脳障害や循環器疾患を持つ人に多くみられます。血管障害や腫瘍などによる脳障害、心不全などの心疾患、そのほか筋ジストロフィーなど、脳幹にある呼吸に関係した中枢に異常があつて起こる場合と、ピックウィツク症候群や慢性閉塞性疾患、ポリオ、頸椎症、頭蓋の寄形など、化学制御系の異常によって起こる場合とに分かれます。

通常、血液中の二酸化炭素量が増えると、延髄にある呼吸ニューロンが活発に活動して二酸化炭素を減らすようはたらきます。化学制御系の異常とは、こうした制御が正常に機能しないことをいいます。
中枢型無呼吸の特徴は、無呼吸が一晩を通じてほぼ均等に起こることです。また、呼吸の再開時にいびきをともなわないこともあります。
最近では、一部の中枢型無呼吸の患者で、閉塞型のように上気道の通りをよくすると無呼吸がなくなることが報告されています。そうした患者の上気道を観察すると、閉塞性無呼吸の人の特徴も見られます。最後の「混合型」無呼吸は、はじめは中枢型の無呼吸であったたものが、途中から閉塞型に移行するというタイプで、本質的には閉塞型の無呼吸といえます。中枢型の無呼吸が終わる時点で上気道の閉塞が続いていると、無呼吸が閉塞型へと移行するのです。

健康な人でも睡眠中の呼暇停止は起こっている?

人は眠りに入るとさまざまな条件から上気通が狭窄しやすくなりますつまり、いびきをかきやすくなります。そのうえ、睡眠中の呼吸は起きているときの呼吸に比べてきわめて不安定にもなります。

呼吸のリズムが不規則になり、呼吸自体も浅くなります。また睡眠中は換気(体に酸素を取り入れて炭酸ガスを排出する)機能が低下することから、血液中の酸素が不足しがちにもなります。

このとき健康な人でも呼吸停止を起こすことがあるーというと驚かれるでしょうか。人の眠りと呼吸の関係について、ここで詳しくみてみましよう。

睡眠には、レム睡眠とノンレム睡眠があります。健康な人の睡眠パターンはほぼ定まっていて、一晩にレム睡眠とノンレム睡眠を4~5回くり返しています。

レム睡眠期は一見熟睡しているように見えるのですが、脳波を調べてみると覚醒しているときに近い脳波像を示し、眠りは浅いとされています。
時間は1回20分ほどで、急速な眼球運動を行ったり、夢を見るのもこのレム睡眠のときです( ノンレム睡眠期にも夢は見ていますが、眠っている人をレム期のときに起こすと、その80% が「いま夢を見ていた」と答えるのです)。
一方、私たちが眠っている時間の大半を占めるのがノンレム睡眠です。専門的にいえば、ノンレム睡眠は、ⅠからⅣのステージに分かれ、この順に眠りは深くなります。

通常、眠りはノンレム睡眠からはじまります。ステージⅠの浅い睡眠から順にステージⅥの深い眠りへと移行し、そこから逆にステージⅠにかえると今度はレム睡眠に入り、Ⅰつの睡眠周期が終わります。

ここまでおよそ90分(70分~120分) といわれています。ちなみに睡眠時無呼吸症候群の人の場合は、こうした規則的な睡眠パターンを描けなくなります。ステージⅢ以降の深い睡眠に入る前に、息苦しくなって目ざめてしまうことが多いからです。

私たちは、眠っている間にこの睡眠周期を4~5回くり返しています。呼吸の特徴をみると、睡眠周期の1まわり目から2まわり目までは時間が経過するにしたがつて次第に呼吸数は低下していき、夜明け近くの4まわり目から5まわり目で安定した規則的な呼吸になります。

ただレム睡眠期では、呼吸数は心拍数とともに不規則となって、換気量も不安定になります。健康な人が呼吸停止を起こすのはこのレム睡眠期と、ノンレム睡眠期のⅠとⅡのステージに多くみられます。そしてその原因に関係しているのが動脈中の二酸化炭素分圧(動脈中に占める二酸化炭素の「圧力」の割合) です。正常な人の睡眠中に、二酸化炭素分圧がわずかに下がっただけで、呼吸停止が起こることがわかっているのです。

ちなみに脳が覚醒しているときは、二酸化炭素分圧が低下しても呼吸は規則的に続きます。。つまり「覚醒していること」が呼吸の安定性に役立っているはそれだけ不安定な条件下で呼吸をしているのです。