睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群の治療その2「内科的治療が必要ならそちらを優先」

体のどこかに疾患があり、それがもとで睡眠時無呼吸症候群を起こしている人は、その治療を行うと無呼吸は顕著に改善されます。
しかし、そうした基礎疾患をともなわない睡眠時無呼吸症候群の人が、数の上では多数を占めます。その場合、睡眠時無呼吸自体に対しての治療を行わなければなりません。

治療の方法としては、持続陽圧呼吸装置(CPAP)の導入や夜間の酸素吸入などの内科的治療と、気管切開術や咽頭拡大術などの外科的治療に大きく分けることができます。それぞれどのような方法があるか、まずは内科的治療からみてみましょう。

効果をあげるCPAP療法

睡眠時無呼吸症候群における内科的治療で、もつとも効果がある方法として知られているのが持続陽圧呼吸装置(CPAP)を使った治療です。CPAPというのは、鼻にゴムマスクのようなものを装着し、コンプレッサーによって空気を持続的に鼻から上気道へ送り込むことで上気道の閉塞を防ぐという方法です。中~重度の睡眠時無呼吸症候群の治療方法として中心的なものになっています。
CPAPは一般に販売されているものではなく治療用具であるため、使用にあたっては医療機関で医師の診断を受ける必要があります。

下あごを前方に固定して気道を広げるスリープスプリント

スリープスプリントも高い有効性を示す治療器具の1つです。これは夜眠るときにマウスピースのようなものを口のなかに装着することで、下あごを前に引き出し、舌根の沈下を防止し、気道を確保するというものです。
口を開けて眠る習慣のある人はいびきをかきやすく、無呼吸も起こしやすくなります。
これは舌根沈下などの原因のほかに、口の中が乾燥して摩擦抵抗が増えて上気通が塞がりやすくなることも関係しているのですが、スリープスプリントを装着すると上下のあごが固定されるため、しぜんに口を閉じて鼻呼吸する習慣がつきます。また口に装着していると唾液の分泌をうながすので、口の中の乾燥を防ぐという効果もあります。

覚醒回数を減らす酸素療法

睡眠時無呼吸症候群が恐ろしいのは、低酸素血症つまり血液中の酸素不足が引き金となって体にさまざまな悪影響を及ぼすことです。
そこで酸素不足を補うために睡眠時に酸素吸入を行うというのが酸素療法の発想です。酸素療法は、CPAPと同じように鼻にマスクなどを装着し、最初は1分間に1Lから4Lくらいの酸素を鼻腔に送り込みます。治療開始直後は、一時的に無呼吸状態でいる時間が延びることもありますが、日数がたつと無呼吸の時間も締まっていきます。

手軽に試せる鼻孔拡張テープ

最近、スポーツ選手などが、絆創膏を小さくしたようなテープを鼻に貼っているのを見ことはありませんか。これは鼻孔を広げて酸素の吸入量を増やす目的で使われているものです。
テープには2本のプラスチック製のバーが内蔵されています。そしてテープを鼻腔の上あたりに貼ると、鼻に沿って曲がつたバーが戻ろうとする力によって鼻腔が持ち上げられ拡張するしくみになっています。

鼻孔拡張テープはこちら。

鼻孔拡張テープは、誰でも安全かつ気軽に使用できます。薬品類が使われていないので、妊婦や高齢の方でも大丈夫です。鼻の通りが悪くていびきをかく人などは、ぜひ試してみるといいでしょう。もともと鼻炎もちの人には効果があるでしょう。

睡眠時無呼吸症候群の治療その1「肥満ならまず痩せる」

最優先事項は「ダイエット」

いびきをかく人は肥満の人が多い、ということをこれまでくり返し述べてきました。一般的には標準体重を10%超えると肥満、20%を超えると肥満症と呼ばれますが、欧米では「閉塞型」無呼吸症候群の人の、じつに6~7割が、標準体重を20% 以上も上回る肥満症の人という調査があります。

ちなみに肥満の指標は、現在BMIで、計算されます。

BMIについてはこちら。

肥満の人の場合、のどの内側に脂肪が厚く付着して気道を狭めていることが多いので、イまず減車をレというのが治療の鉄則とされています。ですから、なんといつても肥満の原因を明らかにして、理想体重近くまで体重を落とすことが大切です。
減量方法として一般的なのが「低カロリー療法」です。これは、体が必要とする量よりも摂取カロリーを低く抑えるという方法です。
人が1日に必要とするカロリーは年齢などによっても当然違ってきますが、「低カロリー療法」では摂取カロリーを1日8001200kcalに抑えるのが通例です。

極度の肥満には「超低カロリー療法」も必要

また極度の肥満の人の場合、糖質や脂質を可能な限り制限し、摂取カロリーを1日300~800kcalに抑えるという「超低カロリー療法」もあります。
大変過激な方法ですが、高タンパクな食事をとることと、3ヶ月以内の短期間で行うこと、そして体重が理想体重より40% 以上上回つているという条件を満たす人なら、このような療法もあります。
しかしこのような方法は、医師のもとで指導されていることは絶対条件であり、素人が勝手に行うことはできません。この「超低カロリー療法」で口に入れるもののメニューには、ビタミンなどの微量栄養素が適切にバランスされていなければならないからです。「超低カロリー療法」は、短期間でかなり確実に体重を落とせる方法なのですが、注意しなければならないのは、せっかく減量に成功して、睡眠時無呼吸症候群の症状が改善しても、その体重を維持することがかなり難しいことです。

ある調査によれば1年で3分の2の人が再びもとに戻ってしまい、体重を維持できたのはわずか3%だったといいます。したがつて医師などから長期的に指導を受けることが必要です。

手術による減量法も

さまざまな減量を試してはみたものの、すべて失敗に終わった人や、減量することで生命の危機から確実に回避できると診断された場合、手術によって減量化する方法もあります。
しかし、肥満の人が減量した結果、睡眠中の無呼吸や酸素飽和度の低下、不整脈が顕著に改善されたという報告は多数あります。軽度であれば、減量するだけでも睡眠時無呼吸症候群は克服できるのです。
ただ、太っている人で上気道に疾患がある場合は、減量だけではいびきや無呼吸を完全になくすことはできません。減量とともにその治療を行う必要があります。また当然ながら減量には運動も大切です。ただしなにかの病気が原因で太ってしまっている場合は、運動僚法は避けたほうがいいことはいうまでもありません。

早食いが肥満の原因になる理由

なども生活習慣の中で修正していく必要がありそうです。
特に男性ではすごいスピードで食事を食べる人がいますので注意が必要です。

高齢者の診断基準と重症度の判定

加齢により睡眠時無呼暇を起こす割合は高くなる

睡眠時無呼吸症候群の診断基準は「ひと晩の睡眠(7時間) で、10秒以上続く無呼吸(低呼吸も含める考え方もあります) が、30回以上ある場合、または一時間あたりの無呼吸数が5回以上ある場合」です。

けれども、この診断基準を提唱した博士が高齢者を含まない対象での研究をもとに基準を設定したため、こと高齢者においては基準を考え直す必要があるのではないかという指摘も最近ではなされています。
というのも、その後の研究で、加齢とともに睡眠時無呼吸症候群を発症する率が高いことと合わせて、睡眠障害や循環器系の疾患がない人でも、加齢とともに睡眠時無呼吸を起こす率が高くなることがわかつてきたからです。

重症度の評価は、いまも検討が重ねられている

こうした要素を考慮に入れて、1986年にはより厳密に「異常ないびきや昼間の傾眠傾向をともなう睡眠時の閉塞型、または混合型の無呼吸により、潜在的に生命の危険をともなう状態、老人を除いて7時間の睡眠中に30回以上の呼吸停止をともなう状態」と細かく定義されるようになりました。

また、最近では1時間あたりの無呼吸数と低呼吸数が10回~15五回以上を睡眠時無呼吸症候群の診断基準として採用しているところもあります。
このように睡眠時無呼吸症候群の診断基準は、その評価法が検討されている過程にあります。睡眠時無呼吸症候群の重症度の判定についても同様で、いろいろな評価法が検討されています。たとえば睡眠中の1時間あたりの無呼吸数と低呼吸数を評価のものさしにして、軽度10~39回まで、中等度40~79回まで、重度80回以上とする分類。これに血液中の酸素飽和度を組み合わせた評価法で、次のような分類もあります。

  • 軽度
    最低酸素飽和度が85% 以上で、1一時間あたりの無呼吸数と低呼吸数が330回以下のもの。昼間の居眠り傾向はなし。
  • 中等度
    最低酸素飽和度が75%~84% で、1時間あたりの無呼吸数と低呼吸数が30回以上。昼間の居眠り傾向が認められるもの。
  • 重度
    最低酸素飽和度が51%~74% 。
  • 最重度
    最低酸素飽和度が51% 以下、または、1時間あたりの無呼吸数と低呼吸数が60回以上、または不整脈などの心臓の症状があるもの。

話が少し専門的になってしまいましたが、睡眠時無呼吸症候群の軽症、重症の度合いについて、おおよそイメージできたのではないでしょうか。医療の現場では、ここにあげた睡眠中の無呼吸の回数や持続時間、どの程度酸素飽和度が低下しているかといったほかにも、不整脈の有無、昼間の呼吸不全、心不全徴候、血栓性疾患などの有無を参考にして、患者さんの危険の程度を推定しているのです。