不規則ないびきのパターンが夜中中繰り返される

睡眠時無呼吸症候群の人の多くは、眠っているときに、ただならぬいびきをかきます。周囲の人が耐えられないほどの激しいいびきで、息苦しそうにあえいでいたり、ときどきいびきがやんだかと思うと突如、爆発的な音とともにいびきが再開します。時々叫びだしてしまう人もいます。

そうした不規則ないびきのパターンが一晩中繰り返されるのです。いびきがやんでいる時間は、通常20秒から30秒くらい。恐ろしいことに、その間は上気通が閉塞して呼吸が停止しているのです。いわば窒息状態にあるわけですから、再び呼吸が始まるときに、激しくもがくような動きとともに、大きく空気を吸い込もうとします。それが爆発的ないびきの音につながるのです。

呼吸停止は、ときには2、3分から5分近く続く人もいます。それでもほとんどの場合、眠っている本人は自分が無呼吸を起こしていることに気づきません。いつしよに寝ている家族などに指摘されて病院を訪れるケースが大半を占めます。

日常生活だけでなく社会生活にまで影響がおよぶ

睡眠時無呼吸症候群の人は一晩中、こうした無呼吸の状態をくり返し引き起こしているわけですから、当然、眠りの質は最悪、朝、目覚めたときにも疲労が残っています。起床した時点でだるく倦怠感がでしんどい状態になります。

そしてまず間違いなく昼間の居眠りを自覚しています。食後に眠気を催して、ついうとうとしてしまうことは誰にでもあることですが、そんななまやさしい眠気ではなく、重要な会議の最中に突然眠り込んだり、極端な場合、電話中に眠り込んだりもします。お坊さんでお経を上げている途中で眠ってしまうとか、学校の先生で、授業中に椅子に座った途端に眠ってしまうというケースなども報告されています。

とくに問題になっているのは車の運転中に居眠りをしてしまうケースです。信号待ちや渋滞時に眠りこんでしまつたり、居眠りが原因で事故にまで発展することも珍しくありません。長距離トラックのドライバーが居眠りのために起こす事故の何割かは、この睡眠時無呼吸症候群が関係しているとも考えられているのです。

1993年にアメリカの議会と保健省に提出された報告書によると、スリーマイル島の原発事故や、アラスカ沖のタンカー座礁事故、スペースシャトル「チャレンジャー」の事故も、背景には睡眠時無呼吸症候群が関連しているというのです。

睡眠時無呼吸症候群は、健康に害を及ぼすだけでなく、こうした社会的問題をもはらんでいるのです。この病気は過剰な眠気をもたらすだけでなく、日常の知的活動能力にも大きく影響を与えます。睡眠中に酸素が十分に脳へ行き渡っていないので、集中力や記憶力は低下し、行動力も鈍化、作業能力は落ちてきます。

また注意力や判断力もにぶくなってきます。ですから、鉄道やバスの運転など多数の人命にかかわる職業につく人は、睡眠時無呼吸症候群の検査を受けることが必要ではないかという意見も出されているほどです。

子どもの場合は、学校の成績が下がったり、発達の遅れがみられるようになります。多動(注意散漫で、落ち着きがなく衝動的な行動が顕著にみられること) をともなう行動異常もしばしば観察されており、症状が進行すると頻繁に夜尿をくり返すようにもなります。

性格までもが変わるという報告もある

慢性化した睡眠時無呼吸症候群の人の場合は、異常な眠気のために仕事に支障をきたすようになります。精神面に及ぼす影響も大きく、不安が増大し、神経過敏になり、二次性抑うつを招いたりします。

睡眠時無呼吸症候群にかかると性格も変化するという報告があります。ものごとを綿密に考えられなくなり、こつこつと積み上げていく種類の仕事や、細かな仕事が面倒くさくたいまん感じるようになるのです。

怠慢、無責任といった傾向や、協調性が失われて独りよがりな傾向が強くなる、といわれています。そのほか性的機能障害も睡眠時無呼吸症候群の症状の1つで、性欲や勃起能力の低下もみられます。こうしたことから、アメリカでは睡眠時無呼吸症候群が原因で離婚する夫婦も増えているといいます。

通常の社会生活を維持することが困難となれば、たしかに離婚に発展してもいたしかたないかもしれません。これもまた睡眠時無呼吸症候群がもたらす社会問題の1つといえるでしょう。