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睡眠時無呼吸症候群の治療その5「家でできる無呼吸やいびきの対症療法」

睡眠時無呼吸症候群の根本的な治療にはなりませんが、一時的に睡眠時無呼吸を防止したり、いびきをかきにくくする方法があります。
軽症であれば、これから紹介する方法で無呼吸やいびきを防止することも十分に可能です。これで深い眠りが得られ、周囲の人へ迷惑を及ぼすことがなくなればしめたもの。自分のいびきの程度を知る意味でも、試してみる価値は大いにあるでしょう。

横向きで寝る習慣をつける

仰向けで寝ると、重力の影響で舌がのどに落ち込んで、上気道を防ぎやすくなります。これを予防するには、横向きに寝るくせをつけることです。

事前に家族の方と話し合って、いびきをかいていることに気づいたら、起こしてもらつたり、横向きにするよう頼んでおくのも方法です。
横向きに寝る習慣をつけるために、布団の片側に座布団などを入れて傾斜をつけておくという方法があります。こうしておけば、寝返りを打った拍子に仰向けになることを防止できます。
抱き枕などを使うとさらに横向き寝ることが容易になります。

王様の抱き枕

枕の調整

横向けに寝るときは、枕も少し高めになるよう調節します。枕の下に本などを差し込んで傾斜をつけ、首や体がやや起き加減になるようにすると、気道が通りやすくなります。ただし高過ぎてもよくないので、効果について家族の方の話を聞きながら、いろいろ調節してみるといいでしょう。
いびき防止用に開発された枕もいくつかあるようですし、最近は百貨店の寝具売場などでは、その人の頭の形や眠る姿勢に合わせてオーダーメイドの枕を販売しています。高さ調整ができる枕はこちらです。

鼻呼吸の習慣をつける

鼻詰まりもないのに口で呼吸する習慣のある人は、ぜひこの際、口を閉じて鼻で呼吸するくせもつけてください。といってもいうは易しで、長年のくせは一朝一夕には改まらないかもしれません。方法としては、口を閉じて絆創膏などをタテに貼りつけておくといいようです。というと冗談のように聞こえるかもしれませんが、この方法は、朝起きたときの口の乾きやのどのいがらっぽさを抑え、いびきを防止する上でもかなり有効です。

最初は息苦しさ、寝苦しさを感じるでしょうし、朝になるとテープがはがれていることも多いと思います。しかし慣れの問題ですから、すぐにあきらめたりせず、3ヶ月くらいは続けて試してみてください。なお、鼻中隔攣曲症や鼻茸などの疾患があって鼻詰まりを起こしている人は、当然ながらこの方法は使えません。まずそれらを治療したうえで、口呼吸のくせを治すようにしてください。

寝室の温度

部屋の温度や湿度もいびきや無呼吸に関係してきます。寝室の温度が低く、手足が冷えると鼻も詰まりやすくなります。また部屋の空気が乾燥していると、とくに口で呼吸をしている場合は、上気道の粘膜が乾燥し、ときには炎症を起こす原因にもなります。空気が乾燥しやすい冬場などは、部屋に加湿器などを置いて鼻やのどの乾燥を防ぐといいでしょう。最近ではスチーム式の温熱治原器も市販されています。これはアレルギー性鼻炎などの治療として使われているもので、鼻腔やのどにスチームを送り込み、鼻の通りをよくするというものですが、いびきの人に通用したところかなりの効果をあげたという報告があります。
また、意外におろそかになってしまうのが「換気」。換気も重要にあるように寝室も換気が必要です。

暴飲暴食を慎む。アルコールや睡眠薬は要注意

食生活によっても、いびきを改善することは可能です。朝食を抜いて1日2食ですませたりせず、規則正しい食生活を送り、内臓に負担をかけないことが大切なのです。
胃や腸が弱っていると、全身の疲労につながり、夜、いびきをかきやすくなります。また食べ過ぎや飲み過ぎは、咽頭を充血させたり、粘膜をはれさせて、いびきのもとをつくります。
同じ理由からタバコもよくありません。特に注意したいのはお酒の飲み過ぎです。アルコールは呼吸中枢を麻痺させ、換気機能の低下をもたらすので、睡眠時無呼吸症候群の疑いがある人は絶対によくありません。また大いびきをかく人も、アルコールによってふだん以上の激しいいびきをかくようになります。お酒が好きで晩酌を欠かさないような人は、しばらく禁酒して、いびきの状態を家族に観察してもらうといいでしょう。
お酒を飲んだときと飲まないときで、いびきの程度がはなはだしく違うなら、お酒をひかえる努力も必要です。いびきをかく人は、人からいわれてもなかなかピンとこないものですが、自分がどんなに苦しそうないびきをかいているか、テープを聞かされると身につまされるものです。それを機に、禁酒してみようという決意が生まれるかもしれません。

寝酒(ナイトキャップ)の注意点

睡眠時無呼吸症候群の治療その4「手術が必要なケース」

つらいいびきにも外科的な治療で改善できるケースもあります。。はなたけ扁桃が大きく肥大していたり、鼻腔内に鼻茸があるなど、上気道に疾患があったり、あるいは上気道の形態に異常があって睡眠時無呼吸を起こすのであれば、外科的な修復術や切除術が必要となります。

たとえば鼻中隔湾曲症で、鼻閉によって無呼吸が起こるのであれば、鼻中隔矯正術、同じ鼻閉でも原因が鼻茸や下鼻甲介(鼻の粘膜の一種) にあるのなら、それらの切除術が必要です。

小児に多いアデノイドや口蓋扁桃肥大も、やはり切除術が必要ですし、巨舌症や小顎症症の人には、舌根正中切除術、下顎骨部分切除術や下顎骨前方移動術があります。

つまり睡眠時無呼吸症候群を手術で治すといつても、無呼吸を引き起こす原因や部位によって、手術の内容も当然違ってくるわけです。

ところで、大人で睡眠時呼吸障害を起こしている場合で、もっとも多い原因部位は中咽頭です。ここには口蓋垂や軟口蓋、前・後口蓋弓といった、いびきや無呼吸に関係する軟らかい粘膜組織からできています。それらの形態に解剖学的な異常が見られる場合、その軟部組織を切り取って、咽頭腔を拡げる手術を行います。たとえば口蓋垂が異常に長ければその先端を切除し、口蓋扁桃が大きければ摘出することもあります。

また口を開けて見える、のどの両わきにある前・後口蓋弓という膜の部分を切除するケースは、なかでもいちばん多いといえます。
切除する部位は1つとは限らず、口蓋垂と前・後口蓋弓をいっしょに手術することも珍しくありません。

こうした中咽頭での原因部位をとりのぞき、咽頭腔を拡張する手術を総称して「咽頭成形術(UPPP)」と呼んでいます。

この「咽頭成形術」は、睡眠時呼吸障害だけでなく、ひどいいびきを治療する目的でも行われます。ただ、同じ咽頭成形術であっても、いびきの治療では粘膜だけを切除する比較的軽い手術で済み、局所麻酔で行われることもあります。
ですから外来手術で済む場合があるのに対し、睡眠時無呼吸症候群の場合、粘膜組織を広範囲に切除することが多く全身麻酔によって行われます。したがって入院治療となります。それぞれの場合の手術について、詳しく見てみましよう。

いびき治療のための咽頭成形術

手術の規模としては扁桃を摘出する手術と同じ程度で、局所あるいは全身麻酔によって行われます。外来手術で行うことも可能ですが、大事をとって、最近では入院治療をするところも増えています。
また、いびきだけが問題となっている人でも、舌根が高くてのどの奥を診ることさえできない人もいます。こうした場合では全身麻酔が必要で、入院を要します。
いびきをかく人の咽頭を診ると、口蓋扁桃はのどの奥に向けて突出し、後口蓋弓の幅が広く、また口蓋垂が長いといったパターンがよくみられます。それらの結果、上気通が狭くなってしまつているわけです。

後口蓋弓は膜のようになっている部分ですが、いびきをかく人はその広さが5mm以上ある場合が多いのです。後口蓋弓、前口蓋弓ともに左右に分かれており、左右の口蓋弓の距離が狭いケースも、のどを塞ぐことになるのでいびきをかく原因になります。
また口蓋垂の長さが1cm以上あると、やはりいびきの原因になります。ちなみに口蓋垂の長さは、その人の体格などには関係ありません。一般的な手術の手順はこうです。まず麻酔をかけます。局部麻酔であれば、咽頭の局所に麻酔を塗布するか、前後口蓋弓に局所麻酔薬注射をします。それから扁桃摘出術を行います。

次に口蓋垂の外縁に沿って後口蓋弓を上方向に切断していき、前口蓋弓の上の緑に達したところで、遊離している後口蓋弓の端を持って外側上方に引き上げ、前口蓋弓と接触さほうごうせてみて、縫合するのに余計な部分を切除します。

その後、前後口蓋弓の遊離緑を縫合します。最後に長く残った口蓋垂をくさび形に切って左右を縫合します。口蓋垂の切り方では、単に横に切って前後に縫合する方法もあります。

なお、いびきの手術で口蓋垂を残すか全部を切除するかについては、ケースバイケースといえます。切除するとしても、口腔内の美容という観点から少し残しておくケースもあります。

ちなみに口蓋垂をすべて切り取っても、ほとんどの場合、後遺症はありません。手術の時間はおおよそ1時間前後です。出血や術後の痛みは、扁桃摘出手術とほぼ同じです。

このいびき治療のための咽頭成形術は、いびき研究の世界的な先生が、すでに60年以前から行っていた「咽頭腔拡張手術」がもとになっています。

睡眠時無呼吸症候群を治療するUPPP手術

閉塞型無呼吸症候群の閉塞部位としては、上・中咽頭境界部、舌根部、喉頭部の3つに大きく分けることができます。UPPP手術の対象となるのは上・中咽頭境界部に閉塞部位がある場合で、下咽頭が狭窄している場合ではほとんど効果がありません。

したがって、気道閉塞部位を確認するため、手術にあたっては、食道内圧の測定検査や画像診断などを受ける必要があります。手術は一般的には全身麻酔で行われます。

いびき治療のための咽頭成形術と同様、まず口蓋扁桃を摘出してから後口蓋弓の処置によ入ります。切開線を入れ、軟口蓋の表面の粘膜を卸がしてこれを切除します。
その後、残された軟口蓋の外側の遊離緑を引き上げて反転し縫合します。
最初に軟口蓋粘膜の表面を剥がしたのは、そうしておかないと縫合してもくっつかないからです。軟口蓋の外側遊離緑を引き上げるときは、たるみをなくすため、できるだけ外側上方へ引き上げるようにします。
こうして縫合すると、咽頭腔は広く拡大したことになります。

いまではこのUPPP手術が、閉塞型無呼吸症候群の代表的な外科的治療方法となっています。しかし、この手術が開発される以前は、閉塞型無呼吸症候群の外科的治療方法といえば、気管切開術でした。気管切開術は、もっとも確実に効果が上がる方法ではあるのですが、術後の感染を起こしやすいこと、会話の障害や外見上の異様さなど、患者さんの精神的苦痛がたいへん大きいので、極度に重症の場合や、緊急避難的処置をのぞいてはほとんど行われていません。

最近では有効な内科的治療であるCPAP(持続陽圧呼吸装置) が開発されたことも、気管切開術が行われなくなった理由の1つといえます。睡眠時無呼吸症候群の治療として気管切開術が適用されるのは、次のような場合です。

  • 社会的、経済的障害をともなう、高度な日中の傾眠がある
  • 重度の不整脈がある
  • 1時間あたりの無呼吸回数が60以上である。
  • 睡眠中の酸素飽和度が40%以下である。
  • 内科的治療によっては効果が得られない

手術ができないケース

仮に中咽頭に形態異常がり手術が必要な場合でも、手術ができない場合もまれにあります。小顎症の人や、下顎骨の形態異常、浮腫や血管腫が原因による巨舌症の人などがそうで、これらの人はまた別の手術や内科的治療が必要になります。他にも先天性鼻咽閉鎖症などの先天的疾患がある人は、手術が受けられません。